〜言の葉の部屋〜

仮初の聖闘士 15



「・・・頼む。1人ずつ話してくれ」
 オレに訴えかけていたモノ   いやモノ達の姿がそこにはあった。
 【シードラゴン】
 【シーホース】
 【リュムナデス】
 【クリュサオル】
 【クラーケン】
 【スキュラ】
 【セイレーン】
 7体のクロスと似て異なるモノ達。
 オレが来た事で嬉しいのは解るが・・・一斉に話し出されても事情の把握が出来ていないオレでは意味が解らない。
 7体を代表して話し出したシードラゴン曰く、アテナに封印され数千年にも及ぶ惰眠をポセイドンが貪っている間に世界の海を支える海底神殿の結界が弱まってしまったと言う事だった。
 補強しようにもコイツ等自身の力も大分落ちているらしく・・・崩壊寸前か・・・
 ポセイドンからは封印される間際に自力で起きるまで起こすなと厳命されたが為に、自分達の力を削って懸命に支えてきたコイツ等を助けてやりたいのは山々だが。
「オレにお前達の対となるモノを探して欲しい、か。そんな事をする前に一度ポセイドンを起こせばいいだろう。眠っている間に守護地が崩壊した等という馬鹿げた結末になりたくなければ起きろとな」
      リィィィィィン・・・
「お前達はポセイドンに遠慮しすぎだ。お前達がやらないならばオレが遣る。このツボの封印を剥がせば良いんだな?」
 忠義が篤いのは良い事だが本末転倒になる前に起こすべきだろう。
 古臭く何が書いてあるのかは解らないが取り敢えずツボに貼ってあった封印らしきものを引き剥がすとツボの中から勢いよくポセイドンが現れ、唯一意志を持っていなかった中央のモノへと吸い込まれていった。
『・・・誰だ。我の眠りを』
「文句を言う前に自分の守護地の状況を確認しろ」
『何?・・・・・・・・・・・・何故このような事態になっている!』
「そんな事をオレが知る訳ないだろう。アンタはアテナへの当て付けで惰眠を貪っていたのかも知れんが、その間にアンタが本来司るべき場所が崩壊寸前だ。海上でもアンタの加護を信じているモノ達の海難事故が多発、海洋生物にも異常行動が出ている。早々に結界の補強をしてくれ」
『・・・無理だな・・・』
 本当にコイツはポセイドンなのか?
 自分の司る地の結界を早々に諦めるのが神なのか?
『海闘士、特に海将軍が居ない今、一時的な補強は出来ても結界の綻びまでもを治すのは不可能だ』
「待て。アンタは自分の所の結界も治せないと言うのか?」
『我が居らずとも結界の維持が出来るよう、結界の要を海将軍にしてしまったからな。本来ならば鱗衣だけでも維持は可能な筈なのだが・・・何故此処まで力を消耗しているのか』
「アンタが寝過ぎたのが原因だ。コイツ等の話ではアンタが封印されてから数千年経っていると言う事だが、それほど長くコイツ等だけで維持が可能なモノなのか?」
『・・・数千年単位では無理だ』
 自分が何年寝ていたか把握していなかったんだな、コイツは。
「アンタがアンタ自身に誓ってくれるならオレが手を貸そう」
『我に何を誓わせたい』
「サンクチュアリに侵攻するな。今回の目覚めでアテナに対する聖戦を起こさず、海の平定に努め、無益な争いを起こさないと誓えるか?」
『そうか・・・貴様は聖域の回し者か』
「勘違いするな。オレはコイツ等に呼ばれただけだ。アテナに忠誠を誓ってもいない上に、アンタ等みたいな神と言う存在とは極力関わりあいたくない。だが・・・あそこにはオレが面倒を見ている子供達がいるんでな。そいつ等をくだらない神の領土争いに巻き込みたくないだけだ」
『アテナの為ではなく、我が嫌う人の子の為に我に誓えと?』
「そうだ」
 余程オレの答えが意外だったのか。
 突如笑い始めたポセイドンにシードラゴン達からも唖然とした気配が伝わってくる。
『ならば、貴様は我の誓いの代価として何を差し出す』
「そうだな・・・まず、ジェネラルとやらを探してやる。ソイツ等が揃うまではオレも結界の維持に力を貸そう」
『足りんな』
「ならばアンタは代価に何を望む」
『1つは海将軍の育成。海将軍とはいえ見つけたばかりは人の子なのでな』
 まぁ確かに成人していたとしても、急にこんな場所に放り込まれたら溜まったものではない、か・・・子供ではない事を願いたい。
「解った。責任を持って面倒を見よう」
『1つは聖域側から海界に対する侵攻が為された場合の妨害及び貴様の海界への帰属』
 ある意味、人身御供な気がしなくもないが・・・馬鹿共を抑えれば問題ないだろう。
 オレが対処すればヤって良いヤツとそうでないヤツの仕分けも出来る。
「アンタから攻め込まない代わりにサンクチュアリ側から攻めた場合はオレが対処しろと言う事だな。了解した」
『随分とあっさり了解するものだな』
「オレは今の教皇とゴールドセイントが無益な戦いを望まないヤツだと知っている。アイツ等の意見をねじ伏せてまで此処を攻めようとするヤツが出てきたならオレは喜んで打ち取ってやるさ。そんな馬鹿な連中はな」
『・・・嘘偽りは無いようだな』
「元々、オレは嘘が吐けないからな。それにアンタの誓いに対する代価ならば、オレが破った時点でアンタの誓いも消えるから直ぐに解るだろう?その時は、アンタの好きな様にすれば良い」
『我らの誓いにも詳しいか。中々変わった人間だ』
「・・・アンタにもオレは人間に見えるのか」
 やはり・・・神にはオレの存在が解らないと言う事か。
 これだけ【人】とは違う力を発してやってるというのに、気付かないのだからな。
『どういう意味だ?』
「いや、気にしないでくれ。これでアンタに求める誓いは成立で良いな?早速だが、此処にあるスケイルの一部を借りて行く。此処に来た時から連れて行けと煩くて適わん」
 オレが此処に来た時から   いや、あの訓練の日からか。
 一部のスケイルは己の対の波動ともいえるモノを感じ取り、その存在がサンクチュアリにいる事に焦りを覚えていた。
 己の対が主の敵である女神の領域にいる事に。
『ほぅ・・・鱗衣の意思を解するか』
「まぁな。お蔭でこっちは昼夜構わず呼びかけられて大迷惑だ。・・・アンタはこの後どうするんだ?」
『そうさな、我の力はアテナに敗れた時より然程回復しておらん。依り代の中で力の回復に努めよう。我の力が満までの間は、貴様に全権を任せる』
「は?いや、待て。それはおかしいだろう。おい、話を    
 ・・・消えやがった・・・
 スケイル達が気を使って話しかけてくるが・・・代行の証の三叉の鉾の在処など知りたくはない。
 シオンになんと話すか・・・考えるだけで頭が痛いな。
「これだから神には関わりあいたくないんだ・・・おい、先ずは対の居場所が解ってる奴からだ。他は此処で大人しくしていろ」
 パーツとはいえ、7体分となるとかなり嵩張る。
 どれだけスケイルから文句を言われようと、そんなモノを纏めて持って帰る気はオレには無い。
 置いて行かれたスケイル達の声を無視し、サンクチュアリへ戻ろうとしたんだが・・・
「・・・此処からどうやって地上に行けば良いんだ?」
 何とか道を見つけ地上に戻ってみればサンクチュアリはポセイドンが蘇ったと大騒ぎになっていた。
 アイツは依り代の所へ向かう前にサンクチュアリに立ち寄り、態々オレに全権を委ねた事を触れて回ったと言う事だ。
 道理でいつも以上の敵意を感じる筈だな。
 有難迷惑とはこの事を言うのだろう・・・




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