〜言の葉の部屋〜

仮初の聖闘士 05



「と、言うことで今日から一緒に暮らすことになったキャンサーとデスマスク、カプリコーンとシュラ、ピスケスとアフロディーテだ」
 オレの紹介に、紹介された子供達が微妙な視線をオレに向けてくる。
 そんな視線を向けられるような事をしただろうか、と考えていると子供達が口を開いた。
「あのさぁ・・・キャンサーと、じゃなくてキャンサーの、じゃねぇの?」
「・・・本当に聖闘士なのか?」
「ありえない間違い方だよね」
「あぁ、シンは聖衣と意思の疎通が図れるからな。シンにとってはあの言い方で間違いないんだ」
 子供達はサガの言葉に納得出来るような出来ないような顔をしてサガを見つめていた。
 オレは子供達とは別の意味でサガを見る。
 この5年間で一番可愛げがなくなったのがサガだった。
 教皇であるシオンが次代のセイントを引っ張るのはお前だ、とか何とか言ったらしく自分がしっかりしなければならないと思ってしまっている。
 いつの間にか一人称が僕から私になり、話し方も堅くなった。
 真面目な外見には似合っているが、余計に11歳の子供には見えなくなっている。
 オレとしてはまだ11歳なのだから、もう少しの間は子供らしくしても良いと思うんだがな。
 気負い過ぎていつか行き詰るのではないかと、サガに関しては心配が尽きないのが現状だ。
 流石にオレも年下の子供に対しても話し方を変えないとは思わなかったがな。
「シンは聖衣と話す以外にも普通の聖闘士じゃ出来ねぇことばかりするから、一々気にしてたらお前等の身が持たねぇぞ」
 サガと双子で、オレが引き取ってからは同じ様に育てた筈なのに全然違う育ち方をしたのがカノンだ。
 コイツの口の悪さは年々悪化し、サガですら正すのを諦めた。
 結構面倒見は良く、サンクチュアリで修行をしている他のクロスの候補生達からも慕われているんだが・・・神官達はそれが面白くないようだ。
 隙在らばオレ諸共評判を地に落とそうとしている。
 オレが目を光らせているから手は出して来ないが、こっちは早急な対処が必要だな。
 カノンの最も大きな変化は負の感情の塊ではなくなった事だ。
 オレもジェミニも安心したが、ゴールドセイントにはならないと言い張り、ジェミニを悩ませている。
 双子座のセイントはその守護星座の通り【2人のセイント】によって成り立つのだとジェミニに延々と繰り返し聞かされているオレの身にもなって欲しい。
 ジェミニ曰く、その関係は神官共が伝えている様な【光と影】の存在ではなく、対等にお互いを支えあう存在としてという事だ。
 オレはサガとカノンならばそんな関係になれるだろうとジェミニに都度言ってやるんだが、そうなると今度は自分が2人分のクロスになれないからカノンはセイントになってくれないのだと、落ち込む始末。
 クロスからの悩み相談は深刻なモノが多いから困る。
「これでも実力は俺たち黄金聖闘士以上だ。学ぶ点も多いから、お前たちも頑張るんだぞ」
 これでもとはどういう意味だ?
 言っている本人に悪気が全く無い上、何気に失礼な事を言っているのだと気付きもしない。
 アイオロスは昔は熱血一直線、という感じだったが弟が生まれたという知らせが届いてからはサガの様に兄としての威厳とやらを醸し出したいらしい。
 その弟もセイント候補生として今サンクチュアリで修行中だったりするものだから、余計に気合が入ってしまっている。
 問題はその弟の年齢だ。
 3歳だぞ?
 不慮の事故で両親はもうこの世に居ないので候補生としてでもアイオロスの身近に居るのは良い事だと思う事にしている。
 一時期は引き取ろうかとも考えてはいたが他の候補生もいる手前、それは難しいだろうと判断した。
 アイオロスの弟がサンクチュアリに来てから五月蝿いくらいに早く会わせろと訴えかけてくるクロスがあるは確かなので早々に対面させてしまえば解決する問題でもあるが・・・オレには3歳の子供の面倒を見きれる自信は、はっきり言って無い。
 オレはコイツ等ゴールドセイントの面倒を見ていたヤツ等を尊敬するよ。
 5・6歳でも色々と大変だったというのに、更に幼い子供の面倒を見ているんだからな。
 まぁ、あのクロスの持ち主ならば後2〜3年もすれば一緒に住むことは可能だろう。
「オレの事よりも自己紹介が先だろう。いいか、こっちの真面目そうなのがサガ。サガにそっくりで口が悪いのがカノン。で、コイツがアイオロスだ。後はジェミニとサジタリアスがこの家にはいる。クロスは専用の部屋があるからクロスの装着後、脱いだら箱には入れずに部屋に入れるようにな。あぁ、礼を言うのも忘れるな」
「「「礼?」」」
「この家の決まり事の1つだ。聖衣は道具ではなく、自分と共に戦ってくれるモノ。身に纏い、世話になった後は礼を言うのが礼儀だと、私達もシンに教えられた」
 オレの説明を引き継いだサガに対して、子供達は困惑している様子だった。
 それなら1つ見せておくかな。
「アプス。対面の場だからと気を使わせたな。今日はもう休んでくれ」
 オレがアプスに声を掛けると各部のパーツがオレの身体から勝手に外れ、自分の部屋へと戻ってゆく。
 本当に良いヤツだよ、アプスは。
 そんなオレとアプスの様子を見ていた3人の子供は呆然としていた。
「ゴールドセイントならばコレくらいは出来るようになって欲しいんだがな」
 オレの言葉にサガもアイオロスも苦い顔をしている。
 この2人も頑張ってはいるんだが、クロスの意思を掴むにはまだまだ時間が必要だ。
「本当に出来るようになる事なのか」
 声と共にふいに何かがオレの服の裾を引っ張った。
 視線を下げるとシュラが真剣な目をして見上げている。
「クロスの気持ちが理解出来るようになればな。クロスを唯の鎧だと思っている内は無理だ。お前達セイントとクロスは対になってやっとその真価が発揮される。どちらか一方だけでは力を出し切れないんだよ。なぁ、カプリコーン」
 シュラに視線を合わせながらオレがカプリーンに語りかけると、自分にも意思があるとシュラに訴えかける為に淡く光輝いた。
 ジェミニとサジタリアスもそうだったが、クロスという存在は良いヤツばかりだ・・・愚痴さえなければ尚良いんだが。
「コイツ等はオレ達の話を聞いているんだ。そしてお前達の頑張りもしっかり見ている。腰掛けシルバーセイントのオレに出来る事なんだ。88のセイントの内、最強の12人であるゴールドセイントのお前達なら出来るようになるさ」
 実際には努力や頑張りだけでは無理だとオレ自身解っているが、目標は大きく持たせたい。
 クロスの意思の片鱗でも掴める様になってくれれば、己自身でコイツ等を守るクロス達も報われるってものだろう。
「さて、オレは村まで行って来るから後は任せて良いな?丁度3人ずついる事だ。サガ、お前はデスマスクの面倒を見てやれ。カノンはシュラ、アイオロスはアフロディーテを頼んだぞ」
「解った」
「聖闘士じゃねぇのにオレもかよ」
「任せてくれ」
 オレがした苦労を少しでもコイツ等に味わわせてやろう、なんて思った訳では決して無い。
 1対1なら問題も起き難いだろうし、下の3人にとっても何かを聞くにしても相手が決まっていれば馴染みやすいだろうからな。
 外に出て、少し歩けば候補生達の訓練所が見えてくる。
 あと2時間もすれば日暮れに差し掛かるが候補生達は訓練の真っ只中。
 セイント不足なサンクチュアリの事情もわかるが、どうにも若い候補生が多い。
 何故、セイントは幼少時から訓練を行う必要があるのかと常々疑問に思っていたが、シオンから返ってきたのはコスモを感覚的に掴む事が幼少時ならば可能だからと言うものだった。
 大人になるとそれまでの観念に捕らわれ、コスモがどういったモノなのかを掴むのが難しくなるらしい。
 その為、幼いながらもコスモの内包量が多い子供を候補生として集めていると言う事だが、オレから言わせれば効率が悪いやり方だ。
 クロスの数には限りがあるが、候補生はクロスの総数の何倍、何十倍も集められる。
 今、此処に集まっている候補生の大半はセイントになれず、生き残れたならば雑兵や神殿兵、または神官や文官その他神殿仕えになる道を選ぶ事になる。
 クロスは自分の持ち主が生まれた時から、その唯1人の主が自分の許へ来る日を待っているのだと何度も神官達に言っているがサンクチュアリにとって新参者なオレの意見が聞き入れられる事は無く、今のオレには無駄に命を落とす子供がいない様に様子を見てやる事しか出来ないでいた。
 そんな事を考えながら家から見えなくなる場所までゆっくりと歩いていると、後ろからカノンが追いかけてくる。
 全く、勘が良すぎるのも考えものだ。
「今日も・・・なのか?」
「紛争地帯への介入が3件と暗殺1件だ。夕飯前には戻ってこれる」
 介入と言っても今回はこのまま続ければセイントが本格的に介入してくるというのを知らしめるだけな上、暗殺のターゲットは居場所が解っている。
 光速移動や空間移動が可能なオレにとっては時間の掛からない内容だ。
 これが和平交渉の仲介役だったりすると無駄に時間が長引いて厄介だったりもするがな。
「・・・いつまでサガとアイオロスに黙ってるつもりなんだよ」
「さぁな」
 いつもと違う伝令係   ゴールドセイントに対する指令専門の伝令係との遣り取りをカノンに見付かったのは2年前だったか。
 あの時からコイツはオレがこうして徒歩で家を出る度に、何をしに行くのか確認してくる様になった。
「オレは嘘が吐けないんだ。2人には今回も言うなよ」
「サガ達も薄々気付いてるに決まってる」
「お前が毎回後をつけて来るからだろう。アイツ等が自分で聞きにきたら答えてやるよ」
 カノンはオレがゴールドセイントの仕事まで請け負っているのが気に入らない様だ。
 手を汚すのは大人の役目だと何度言ったところで納得する事はない。
「オレが好きでやってる事だ。子供のうちは黙って面倒見られていれば良いんだよ。帰るまで3人の事は頼んだぞ」
 いつもと変わらぬ言葉を残してでカノンをその場に置き去り、オレは任務地へと向かった。
 夕飯までに戻れると言ってしまった以上、一刻も早く終えなければカノンが煩いのは目に見えてるからな・・・




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