〜言の葉の部屋〜

仮初の聖闘士 10



 目標をシャカと同じにするかどうか。
 確かにオレはコイツ等に聞き、コイツ等もやると言った。
 言ったが・・・今日はシャカだけを連れて行く予定だったんだがな。
 サガ達にコイツ等を任せてシャカを連れて出ようとした途端に、無言のままカミュが凍気を振りまき、ミロとアイオリアはシャカだけ何処に行くのかと大騒ぎをする始末。
 アルデバランとムウは何も言わなかったが、4人を連れて行き2人を置いていく訳にはいかないだろう。
 コイツ等6人を連れて行くとなると・・・仕事をしながら面倒を見る余裕はない。
 必然的にサガ達も連れて行くことになったんだが、こっちはこっちで後悔の念が渦巻いている状態だ。
 この1週間の事を反省しているのだとは思うが・・・まったく、何を企んでいたのやら。
「同じ事を繰り返さなければ良いと言っているだろう。悪かったと思うならその分行動で示せ」
 余りにも謝罪の念が強かった為に今回は何も聞かないでいてやる事にしたのが失敗だったのか・・・
「・・・教皇様が・・・」
「シオン?」
 サガが小声で呟いたが・・・何で此処でシオンが出てくるんだ?
「仕事すると思ったんだよ!あんたがコイツ等の面倒を見るので大変だったら、幾ら爺さんでもあんたに押し付けてる分の仕事位するんじゃないかって!」
「考えが甘いな、カノン」
 アイツがそんな事を考慮する訳が無い。
 あわよくば自分の仕事を全部オレに押し付けようとしている程だ。
「今回の事を踏まえて今後は最悪の事態も想定した上で計画を立てる事だな。200年以上教皇としての仕事をしてきたのだからオレが居る間くらい多少休んでも良いだろう、等と戯言をほざく様なヤツがオレが忙しくなった程度で仕事をする訳が無い。お前達、情報収集を怠ったんじゃないのか?」
 反論が無いって事は怠ったんだな。
 大体、アイツ等を預かって直ぐに実行に移した事から考査する時間が少なすぎる。
 情報の大切さは常々教えてきたんだが、然程大事ではないと思っていた上に知っているモノが相手だからと深く考えなかったんだろう。
 今回の事はコイツ等の成長に一役買ったと思えば安いモノか。
「まぁ、お前達が気遣ってくれるのは嬉しいが仕事に関しては余計な心配をする必要は無い。オレとて何でもかんでも引き受けている訳ではな    
「今、何て言ったの!?」
 ・・・何かオレは変な事を言ったか?
 アフロディーテだけではなく、デスマスクやシュラ、サガ達までもがオレの言葉を待っているんだが・・・余程変な事を言ったのか、オレは。
「何でもかんでも引き受けてはいないと」
「それより前だって!」
 デスマスクが必死になるような事は何も言っていない筈なんだがな・・・
「・・・余計な心配をする必要は無い」
「違う」
 オレは聞かれた事の答えを探しているだけなんだが・・・何故呆れた顔をするんだ、シュラ。
 しかし、これより前となると・・・
「あぁ、シオンが教皇の   
「そこも確かに気になったけどな、戻り過ぎだって。あんた、解っててワザと外してんのか?」
 わざと外しているつもりは無いんだが、これ以上おかしな部分は無いと思うんだがな。
「残るはお前達の情報収集に関する所しか思い当らないが・・・」
 オレに聞かせる様な溜め息が6つ。
 そんな溜め息を吐くならハッキリ言えば良いだろうに。
「悪いが他におかしな事を言ったとは思えないんだがな」
「いや、誰もシンがおかしな事を言ったとは言ってないからな」
「しかしな・・・ロス。おかしな事で無いなら、何をお前達はそんなに気にしているんだ?他にお前達が気にするような事を言った覚えは    
「初めてだ」
 ・・・サガ?
「私達の気遣いが嬉しいと。シンが自分の気持ちを私達に言ってくれたのはこれが初めてだ」
 そうだっただろうか。
 いや、流石に8年も暮らしていて一度も言っていない事は無い・・・と思いたい。
 思い返してみようにも、大まかな事象は思い出せるが自分の一言一句まで思い出せる筈もなく・・・
「・・・感謝の意は現した事があると思うが・・・」
「確かに『すまない』とか『悪いな』とかはあったけどね」
「ありがとうや嬉しいと言うのは聞いたことが無い」
「それにさ、今の状況でオレ達に嬉しいって言ったって事はあんた自身の気持ちって事だろ?」
 オレ自身の気持ち・・・だと?
「まったく解ってねぇな、アンタ」
「昔、サガが言った通りだな。オレ達の事は解るのに自分の事は解っていない」
「あの頃から変わらずにいる事を喜ぶべきなのか嘆くべきなのか」
 暗に成長していない、と言っているのだろうが・・・何故、オレがそんな事を言われなければならないんだ。
「アンタはさ、自分を嫌ってるヤツは嫌うし、好いてるヤツは好きになるだろ?」
「あぁ。そういう性質だからな」
「嬉しいとか楽しいとかって感じる時も、周りがそう思ってるからなんじゃないかってオレ達は思っていたんだ」
 確かにそういった感情を向けられれば多少の影響は受けるが・・・これを口にすると藪蛇になり兼ねないか・・・
「今までシンの感情なのだろうと思えたのは『面倒』や『疲れる』といった言葉だけだった」
「それはシオンが面倒事を持ち込むからだろう」
 オレはお前達に対しても面倒だと思った事は数えきれない程ある。
 だがな、そんな事をお前達に言える訳が無いだろう?
 面倒事もあると解っている上でお前達を引き取ったんだからな。
「そうだよ。アンタは爺さんにはそうやって向けられる感情ってのと違う感情を返してんだ。それってアンタ自身の感情って事だろ?」
「そんなシンが私達が嬉しいと思っていない時に嬉しいと口にした。ならば、それは貴方自身の感情だと私達は思ったんだが・・・違うのか?」
「お前達・・・」
 ・・・お前達の言い方だとオレ自身に感情が無い様に聞こえるんだがな。
 オレとて周りの感情に引きずられてばかりいる訳ではない。
 周りの感情にばかり流されていたなら、オレは今此処でお前達と共には居ないと何故気付かない。
 お前達は知らないだろうが、オレに居なくなれと思っている連中はサンクチュアリに数多くいる。
 シオンの様に此処に居ろという想いの持ち主以上のモノが、邪魔なオレに居なくなれと強く思っている。
 それでもオレは此処に居る事を選んだ。
 この気持ちも少数派の想いに流されている可能性は否定出来ないが・・・オレ自身はオレの意思だと思っている。
 オレは   無言で6人の頭に拳骨を落とした。
「イッテェ・・・」
「痛っ」
「いたっ!」
「何すんだよ!」
「殴られる理由が解らんのだが・・・」
「怒らせるような事を言ったか?」
「お前達はオレを何だと思っているんだ」
 先を歩いていた年少6人も、コイツ等の声に振り返る。
 二度に渡って説明するのは面倒な為、オレは年少6人もこちらへと呼び寄せた。
「良いか。オレは確かに周りの感情に左右される。だがな、オレ自身の感情が無い訳ではない。オレが嬉しがっているかどうか、それ位は自分達で見極めろ。別段、表情まで消しいている訳では無いだろう?オレとしては8年も一緒に暮らしていながら、今更サガ達にそんな事を言われるとは思っていなかったがな・・・」
 年長3人組は誰が見ても解るほどに落ち込み始めた。
「オレが嘘を吐けない、と言うのは何も言葉に限った事ではない。表情を消している訳では無い、と言ったが正確には表情も消せないんだよ、オレはな。シオンはどちらにせよ表情が乏しいから解りにくいと言っていたが、それでもアイツは大抵オレの表情を判別している。オレはこれまでに一度もお前達に笑顔を見せなかったか?」
 心の底から呆れて怒った時には笑顔が出ると言うのは、先日初めて知った事だがシオンは二度と見たくないと言っていたな。
 下手をすれば命が無いと感じたそうだ。
 だがコイツ等にそんな笑顔を向けた事は当たり前だが無い。
 コイツ等には普通の笑顔しか向けていない。
「オレが神殿の馬鹿共に笑顔を見せた事があるか?」
 たとえ軋轢を深くする事になると解っていても。
 オレがアイツ等に対して笑顔を向ける事は不可能だ。
「全てを言葉にしなければ気持ちが伝わらないならば・・・クロスの意思など到底お前達には解らんだろうさ」
 今のオレは   結構情けない顔をしているのではないかと自分でも思う。
 コイツ等にきつい事を言っている自覚もある。
 クロスの意思を感じ取れる様になるなど、不可能に近い事も解っている。
 それでも。
 すべてを口に出さなければ伝わらないと言うならば、言わずにいる訳にはいかなかった。
 不可能に近い、だが、可能性は0では無い。
 時期が来て、オレが此処を去ったとしても。
 この中の誰か1人だけでもクロスの意思を理解出来るようになって欲しいと心底願っている。
 あの物言えぬ心優しいモノ達の為に。




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