〜言の葉の部屋〜

仮初の聖闘士 16



「・・・それで、私に言う事は無いのか?」
「この2人の候補生を引き取りたいという事くらいだな。後は大体ポセイドンが触れて回った通りだ。取り敢えずオレが代価の拒否をしない限りは聖戦は勃発しないから安心しろ。オレが約束事を破棄する訳が無い。つまりは今回の目覚めによるポセイドンとの戦いは起こりえないと言う事だ」
 オレは目的の候補生を見つけ、彼らを連れてシオンの元へと帰還の報告に来ていた。
「リュムナデスの対になるカーサとクリュサオルの対になるクリシュナだ。セイント候補生だったが今後はジェネラルとしてオレが面倒を見る」
 片っ端から素質のある子供をサンクチュアリが集めていたのが幸いした、と言って良いものか判断が難しいところだが、あの海上訓練で落ちた候補生とそれを助けに飛び込んだ候補生の1人がスケイルの対となる者だった。
 海に触れた事でスケイル達も自分の対だと感じ取る事が出来たらしい。
 ・・・まだ海に触れていない候補生は一度海に叩き込むか・・・
「楔は必要ないとお前が言っていた筈だがな」
「海底神殿の結界が崩壊し海が荒れれば地上にも影響が及ぶ。防ぐ為にはジェネラルの存在は必須。この2人もそれを理解したからこそ、ジェネラルになる事を了承してくれたんだが・・・そんな事も此処の馬鹿共は解らないのか?」
「う・・・むぅ・・・しかしだな」
「1つ言っておく。海界側からサンクチュアリに宣戦布告をする事は神の誓いにより無くなった。その代価としてサンクチュアリから海界に宣戦布告でもしようものなら、オレは海界側に付く事になっている。オレが敵意を向けるモノに容赦は出来ないと解っているよな?シオン」
 これを裏切りと言いたい奴には勝手に言わせておけばいい。
 裏切るも何も、オレが此処の馬鹿共の為に動いた事は一度も無いんだが。
「あの子らが何と言うか」
「海の平和を保つ事は地上の平和にも繋がる。その上、ジェネラルになるのはセイント候補生だ。揉める要素が何処にある?クロスもスケイルも意志を持っているが纏うものを操る事は出来ない。結局は纏うもの次第。そうだろう?お前等」
 シオンにアイツ等を引き合いに出される事は解ってたからな。
 アイツ等は扉の向こう側に待機させてある。
 此処での会話を包み隠さず聞かせ、自身で判断させる為に。
「オレは別に構わねぇよ」
 サンクチュアリを嫌っているカノンはあっさりしたモノだ。
「彼らが海闘士という立場から海の、ひいては地上の平和の為に動くと言うならオレも反対はしないし、彼らが海将軍の任を果たせる力を付けるまで協力は惜しまないつもりだ」
 アイオロスの言葉にデスマスクら3人も頷く。
 そんな様子をまだ半年程度しか共に暮らしていない6人は不安そうな目で見つめていた。
「・・・一言・・・」
「何だ?」
「私達にくらいは一言相談してから決めて欲しかった。私達が反対するとでも思ったのか?」
「いや、ただ単に話の流れ上こうなっただけだ。ポセイドン絡みの可能性は考えたが、まさか全権委任までするとはオレにも予想外でな。アイツは海底神殿からいなくなる時にこちらの都合も考えず勝手に言い残して消え去ったんだ。はっきり言えば大迷惑だな」
「・・・時間があれば私達の意見も聞いたと?」
「当たり前だろう。ただでさえゴールドセイントの仕事をしながらシオンの仕事の面倒を見てシルバーセイント達の仕事の振り分け及び報告の確認その他諸々の内務調査に候補生達の健康管理等の雑務を行っている上に海底神殿の結界の維持とジェネラルの探索・育成。此処までは間違いなくオレが引き受けたが、海界の全権が委任されたとなるとこれから集まると言うマリーナ達の面倒まで見なければならないという事なんだぞ?このオレがそんな面倒な事を進んで引き受ける筈がないだろうが。お前達に相談出来る暇があったなら相談したし、全権委任に関しては断る隙があったなら間違いなく断っている」
 ・・・なんだ?その自分から不幸を背負うモノを見るような憐れんだ目は。
「解った。貴方がまた無意識のうちに厄介ごとを拾ってきた、というだけの話だったんだな。思い悩んだ私が間違っていた。ついでに言えば候補生の健康管理くらいは私達でも出来ると言っておく」
「・・・そう言えばそうだな。候補生達を任せて良いなら、食事の面倒と訓練終了時の怪我の程度の確認、寮内の清掃と訓練着の洗濯、あと   
「待て!カーサとクリシュナだったな。この人はお前達候補生の面倒を此処まで見ていたのか?」
「そうだよ。それに前は怪我や体調が悪くて動けない時は死を覚悟しなきゃならなかったけど今は風鳥星座が来てくれるから即死じゃなきゃ生き残れる様になったって先輩方は言ってたよな?」
「風鳥星座の聖闘士が来るまでは酷い食事だったとも聞いている」
 サガが知らないのも無理は無い。
 食生活は別として、ゴールドセイントになれる程のコスモを内包した子供は同じ候補生でも別扱いだからな。
 替えがきくと思われているブロンズやシルバーセイント候補生の扱いは雑なもので死んだらそれまで。
 替えのきく子供なんざ1人もいないって言うのに・・・
「・・・子供に甘いとか自分で言ってたけど・・・まさか此処までとはね」
「時間が無いって言ってたってのに、いつの間にって感じだよなぁ・・・」
「食事の時間には毎日家にいた筈だ・・・どうやって候補生の食事の面倒を見ていたんだ?」
 黙って聞いていた年中3人組からも呆れた視線が向けられてきた。
 オレの仕事量を知らなかった年少6人組はシオンの所へ行って「自分の仕事は自分でしてください」と訴えているが、それは無駄だと言ってやりたい。
「サガ、結局のところ候補生の世話はお前達に任せて良いのか?」
「やるに決まっているだろう!黄金聖闘士たる者が聖域の状態を把握していなかったとは・・・」
「そこまでの事じゃないがな。なら明日で構わないんで1つ頼まれてくれるか?」
「何をすれば良い」
「候補生の中でまだ海に入った事が無いヤツを全員海岸に集めてくれ。まだ中にジェネラルになるヤツがいるかも知れない」
 出来れば子供がこれ以上増えてもオレが困るので居ないでくれるとありがたい。
「それとシオン。住処の増築の手配を頼む。ジェネラルは子供だろうが成人していようが鍛えないとならないんでな。余裕を見て10部屋は追加したい」
「海将軍用に近場に1軒建てた方が早いだろうに」
「それだと食事やらが面倒だ。後はスニオン岬の岩牢に入る許可をくれないか」
「なに?」
「あの奥にポセイドンの三叉の鉾があるらしい」
「!?」
 シオンも知らなかったのか。
 スニオン岬自体はポセイドンの神殿が建っている以上、そこにポセイドンの私物があってもおかしく無い筈だが、牢の存在がアテナの領域と勘違いさせていたのだろう。
 それにしても・・・ポセイドンの領域ともいえる場所の真下に牢を作るなんざ当時のアテナは何を考えていたんだか。
「それがポセイドンの代行の証になるらしくてな。スケイル達が取ってこいと煩いんだ。あぁ、代行の証と言っても持っているだけでは意味がないそうだから・・・キサマ等が取りに行っても無駄だ」
 三叉の鉾の話をした途端にコソコソと此処から出ようとしたヤツ等に言えば、案の定、動きを止めた。
「キサマ等馬鹿共の考える事なんざ手に取るように解る。三叉の鉾はポセイドンが代行と認めた者が手にして初めて証となるんだが、その程度の事も解らない頭なら邪魔なだけだな。さっさと何処かに捨てちまえ。自分で捨てられないならオレが手伝ってやるが?」
「そこらで止めてやれ。お前の忠告は脅しにしかならんと」
「アイツ等に忠告なんざするものか。本気に決まっているだろう」
 早く神官達にも代替わりをしてもらいたいものだ。
 見習いとして神殿にいるヤツ等の大半は元セイント候補生   つまりはオレを知っているヤツ等が占めている。
 その為に今でも神殿の内部情報を解る範囲でオレに流そうと無理をしようとするヤツもいて困る事もあるが、今の神官共とは比べモノにならないくらいサンクチュアリ全体の事を考えられる神官になるだろう。
「いいか、サンクチュアリの、特にキサマ等神殿関係者は一切海界の事に関わるな。シオン、もしコイツ等が手を出して来たら最低半年は一切の依頼を受けないからな。勿論、風鳥星座を指名している依頼も全てだ」
 あの神殿関係者から外交権を剥奪出来なかった一件からオレも何もしなかった訳じゃない。
 アイツ等が好き勝手やるならと、オレも勝手に裏で動いたまでの事。
「聞いていたな。海界の件は風鳥星座に一任する」
「教皇様!?」
「お気は確かですか!」
「このような得体の知れない者に聖戦の行く末を任せるなどとは」
「その得体のしれないセイント宛の依頼の方が今や他のどの依頼より多いってのを忘れるなよ?キサマ等の行動一つでサンクチュアリの経済状況が一変するって事をな」
 実績を作ってきたオレには簡単な事でたった一言「次の依頼も確実に成功させたければオレを指名する事だ」と依頼主達に伝えただけで、話の分かる依頼者達は風鳥星座を指名してくるようになった。
 勿論、その中でも他のセイントで対処可能なものは依頼主に説明した上で他のセイント達に回している。
「お前は・・・嫌いな相手には口も悪くなれば容赦も無いな」
「何も理解しようとしない馬鹿に容赦なんざ必要ないだろ。ま、キサマ等が心配せずとも、どうせオレは   
「その先は言うな。子供等の前だろう」
「・・・そうだな」
 どうせオレはいつか此処から去るのだから、などとコイツ等に言う必要は無かったな。
 その時にはコイツ等も今の座には居ないだろうから。




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