〜言の葉の部屋〜

半神の願い scene-16



 暫くして、一行は十二宮・第一の宮である白羊宮へと辿り着いた。
 聖闘士としては随分とゆっくりした行程であったが、再びこの地を歩くことが出来ると思っていなかった先の黄金聖闘士達にとっては感慨深い時間であった。
 今は牡羊座の黄金聖闘士だったシオンが教皇の座についていると童虎より聞かされている面々は今の白羊宮の主の顔を見たいと思っていたのだが・・・
「もぬけの殻、か」
 白羊宮からは小宇宙どころか人の気配すら感じられない。
「無用心と思われるかも知れませんが、万一、星矢が付いてきてしまった時の事を考え、現在の黄金聖闘士は全て教皇の間に集められています」
 三界間での取り決めにより外敵に攻め込まれる脅威は格段に減っている。
 三界に属さないモノが侵入してきたとしても第三の宮・双児宮の主は亜空間を操る双子の聖闘士。
 排除出来ずとも、足止めの時間を稼ぐには十分な守備力を誇っている。
 説明をしながら金牛宮を抜け当の双児宮を目にした時、アイオリアは言葉を失った。
 アイオリアが先の黄金製闘士達と共に十二宮を通り抜ける事はサガは勿論カノンも知っている筈である。
 他に何者かが侵入してきた様子も無い。
 だと言うのに、目の前には2つの双児宮が聳え立っていた。
「・・・どうせこんなくだらない事をするのはお前だろう!カノン!」
 アイオリアの怒声が響き渡る。
 声の余韻が消える頃、左の双児宮の柱の影から1人の男が姿を現した。
「この位の事で目くじらを立てるなよ。攻撃してる訳じゃねぇだろ?そっちにだって元・双子座の現・冥闘士がいるんだ」
 カノンの視線は同じ顔立ちをした2人    アスプロスとデフテロスに注がれている。
「現・双子座は随分腑抜けた男の様だな。我を感じられん」
「我が強ければ良いってものじゃないだろ?オレはそれで人の道から外れた」
 凄むデフテロスに対し、カノンの態度はあっさりとしたものだった。
「カノン・・・」
「ま、済んだ事は後悔しても仕方ねぇからな。オレはその分、これから返してく事にしたんだよ。って事で、ここの仕組みは右も左もアテナに害意を持っているヤツは通さないようにしてある。勿論、通れるよな?」
 アイオリアと童虎にこれくらいならば構わないだろう、と視線で訴える。
 教皇シオンや童虎の彼らに対する信頼を疑う訳ではない。
 それでも、アテナを守ると誓ったからには冥闘士である彼らを素通りさせる事はカノンには出来なかった。
「お主・・・相変わらず捻くれておるのぉ」
「兄貴とは違うんでね」
 聖域に蘇った日。
 サガとカノンを髪の色の僅かな違い以外で見分けられる者は居なかった。
 姿形のみならず、声、話し方、立ち振る舞い。
 サガの影として育てられたカノンはその全てが染み付いており、黄金聖闘士達にも混乱を齎した。
 だが、1ヶ月も経たぬうちに誰もが2人を見分ける事が出来るようになっていた。
 思慮深く言葉を慎むサガと全く逆の行動をとるカノン。
 不真面目、不謹慎、不遜な態度を取る度に周囲の2人を見る目が変わった。
 聖域で育ち黄金聖闘士としての資格を持ちならがポセイドンの海将軍となりその後アテナに忠誠を誓ったとは言え反省の色を見せないカノンと、教皇を弑逆しアテナすら亡き者にしようとした罪の意識に未だに己を苛むサガ。
 容姿が同じだけに2人の行動は事ある毎に比較され、今ではカノンを諫める者は居てもサガに蟠りを残す者は居なくなっていた。
 サガ本人は、カノンの周りからは理解しがたい態度が全て自分の為である事を知っている。
 知っているからこそ何か問題を起こす度に己を偽る必要は無いと伝えているが、カノンが態度を改める事はなかった。
 お前は善で、自分が悪なのだから、と。
「あ〜、宮を壊すのは抜きな。やっと直ったばかりなんで流石に壊されると兄貴からの説教だけじゃすまなくなるからよ」
 誰からどう思われようと構わない、といった態度を取るカノンにも避けたい事はある。
 その1つが     アテナの怒りだった。




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