〜言の葉の部屋〜

半神の願い scene-02



ギリシャ・聖域


 女神を守る十二宮。
 その頂きにある教皇の間に彼らの姿はあった。
「我が師シオン。この様な時間に召集をかけられるとは一体何が・・・」
 中々口を開こうとしない教皇シオンに痺れを切らしたムウが尋ねるも、シオンはその言葉を遮る様に片手を動かす。
「待て、私もまだ思考が纏まっておらんのだ」
 召集を掛けたのは良いが、何をどう説明すれば良いのか。
 日本にいる童虎からの報告を受けたのは1時間ほど前の事。
 星矢が目覚めた事は小宇宙で解っていたので、その事に関する報告だろうと予想はついていた。
 予想はしていたのだが・・・予想外の報告にこの事をどう皆に伝えれば良いのか迷っていた。
 しかし何時までも言わない訳にはいかない。
「先ずは・・・天馬星座が目覚めた」
「ああ゛?そんな事は此処にいる奴なら解ってるって」
 解りきった事を言うなと口にするデスマスクをシオンは一睨みして黙らせる。
「単刀直入に言おう。目覚めたが・・・どうも記憶の混乱を起こしている様なのだ」
「記憶の混乱?」
 黄金聖闘士達から異口同音に驚きの声が上がる。
「ハーデスから受けた傷が原因なのか、他に要因があるのかは解らんが・・・此度の聖戦の記憶と先の聖戦の記憶が混ざってしまっている、と童虎から報告が入った。己の事は星矢だと認識しているのだが、お前達の事が・・・な・・・」
 シオンは黄金聖闘士達の顔を一巡すると、深い溜め息をついた。
「先の聖戦と言われますと」
「うむ、私や童虎の代の聖戦の事だ。天馬星座は同じ魂が聖戦の度にアテナを守る為に地上に現れる。今生の天馬星座・・・星矢の魂に刻まれた記憶が蘇ってしまったと言うことだ」
 そんな事が起こり得るのかと黄金聖闘士達がざわつき始める。
「そこで先ずはムウ。牡羊座の聖衣を私に預けよ」
「・・・は?我が師とはいえ、それは余りにも・・・」
「仕方なかろう。星矢の中では私が牡羊座の黄金聖闘士なのだからな。さっさとせんか」
「それならば、黄金聖闘士の座を私に譲ったとおっしゃれば」
「童虎が聖戦から半年と伝えてしまっている。半年で新たな黄金聖闘士が決まる訳がなかろう」
「ですが!記憶の混乱を起こしているとはいえ、星矢に偽りを伝えるのは如何なものかと」
「私とて真実を伝えるのが一番だと解っている!だがな・・・お前達の存在自体がややこしい事態を引き起こしておるのだ!」
 存在自体がややこしい。
 そのような事を言われても、先の聖戦の黄金聖闘士を知らぬ当人達には何の事だか解る筈も無い。
 困惑の表情を浮かべる黄金聖闘士達の顔に、幾分か高まってしまっていたシオンの感情が落ち着きを取り戻した。
「余りにも似すぎているのだ・・・お前達の姿形が、先の聖戦で天馬星座の目の前で命を落とした黄金聖闘士達に、な」
 今の黄金聖闘士と先の黄金聖闘士。
 何の因果なのか、その容姿は瓜二つ。
 自分が懐かしさから似た者を集めてしまった、と言うなら解るが黄金聖衣はその様な条件で装着者を選びはしない・・・筈である。
「顔形が似ているだけならまだしも、守護星座までもが同じときておる。私と童虎も悩んだ末の結論なのだと理解してもらいたい」
「・・・我々に先の聖戦の黄金聖闘士を演じろ、と?」
 アイオロスの言葉に他の黄金聖闘士がまさか、という顔をする。
「その通りだ。童虎の報告によると星矢は記憶の差異を指摘すると激しい頭痛を訴えるようでな。何、難しい事ではない。大半は名前覚えれば良いだけの事。問題は・・・」
 シオンの目線はピタリとアイオリアで止まった。
「私・・・ですか?」
「うむ・・・先の獅子座は・・・15歳だったのだ・・・」




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