〜言の葉の部屋〜

半神の願い scene-03



冥界・エリシオン


 今生の聖戦が終わってからというもの、冥闘士達には何よりも最優先で行わなければならない指令が言い渡されていた。
 冥王の剣により傷ついた天馬星座の魂を探し出す。
 星矢の肉体から魂の波動が感じられないのは冥王の剣の影響で肉体から弾き出されてしまったからではないかと、ハーデスは考えていたのだった。
 冥界中はもとより、地上海から海界まで。
 天界以外の全ての場所をくまなく冥闘士達に探させた。
「ハーデス様」
 玉座で眉間に皺を寄せ、誰もが近寄り難い雰囲気を醸し出しているハーデスのもとに双子神が報告に現れた。
「天馬星座が目覚めました」
 地上の探索に赴いていた双子神は天馬星座の小宇宙が戻った事を感じ取っていた。
 あれだけ探させても見つからなかった魂は、いつの間にか肉体へ戻っていたと言う。
「ですが、些か困った事態になっている模様。如何致しますか?」
 ハーデスは天馬星座との戦いを思い返した。
 冥王の剣がその身を刺し貫いたのだ。
 それも今生の聖戦だけではない。
 過去、幾度と無く繰り返されてきた聖戦において仮の肉体を用いたハーデスとの戦いとは言え天馬星座の魂は無数の傷を負っているのだ。
 己の剣が齎した傷が何がしかの影響を与えてしまったのか、とハーデスは考える。
「我が剣が原因ならば、地上へ赴いてでも治癒を施す。それがアテナとの約定でもあり     
 ハーデス自身が行いたいと思った事でもあった。
「それですが・・・どうにもハーデス様の剣の影響とは思えぬのです」
「ヒュプノスがオネイロス等を使い夢を媒介にして探らせましたところ、前世と現世の記憶が混じる、という有り得ぬ事態になっておりました」
「何だと?」
 前世の記憶が消去されきれずに引き継いだまま転生してしまう魂は良くある。
 しかし、そういった場合でも「前世は前世、現世は現世」と記憶は別々に蓄積される。
 稀に現世の記憶を忘れ前世の記憶のみが残る、という者もいたが記憶が混じることなと有り得ない。
 いや、あってはならないのだ。
 魂に備わった防衛本能が正常に働かない、などと言う事は。
「何者かが天馬星座の魂に介入したという事か・・・」
 記憶を司る神には心当たりはあるが、叔母であり、弟神の妻でもあるムネモシュネが介入してくる理由が思い当たらない。
 弟神に頼まれたのだとしたら生温過ぎる。
 ハーデスの知る弟神ならば、混乱させるのではなく記憶を白紙に戻すくらいの事をしなければおかしい。
「地上の者達だけでは心許ない。タナトス、ヒュプノス。準備をしろ。コキュートスへ向かう」
 魂は冥界の管轄。
 己の領分に手を出され、黙っているハーデスではなかった。




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