〜言の葉の部屋〜

半神の願い scene-09



「お主ら、ワシは野暮用が出来た。すまんがこの場で少々待っていてくれるかの?」
 奇妙なモノを見る目でマニゴルドを見ていた青銅4人の視線が童虎に集まった。
「それでしたら老師。私たちは先に十二宮へ向かった方が良いのではないでしょうか」
「なに、然程時間は」
 掛からないと紫龍に伝えようとした童虎は、突如発生した空間の歪みに視線を捕らわれてしまった。
 黄金聖闘士には馴染みのテレポーテーションによる歪み。
 そこから現れたのは長い金糸を靡かせた美丈夫。
「シ」
「アスミタ!」
 現れた人物を確認した途端、一輝は戦闘体制を取ろうとして瞬達に羽交い絞めにされた。
『兄さんまで何してんのさ!』
『・・・すまん。あの顔を見るとつい、な』
『散々人を小馬鹿にしてくれたからな・・・気持ちは解らんでもない』
 聖戦時の十二宮での出来事や、嘆きの壁での出来事に遭遇した紫龍達と違い、好印象を抱ける時間の無かった一輝にとっては特にである。
「思ったより元気そうだな」
 双眸を閉じているにも関わらず、その顔はしっかりと星矢を見据えている。
「アスミタ・・・オレ、ずっとアンタに言いたかった事があるんだ」
「なんだね?」
「ありがとう。あの時、アンタがオレの聖衣に血をくれなかったら、オレは戦い抜けなかった」
「私には必要の無いものだっただけの事。礼は無用だ」
「それでもだよ。アンタに必要なくてもオレには必要だった。だから」
 ありがとう。
 重ねて星矢が伝えると、無表情なアスミタの顔が微かに動く。
「今の君の顔が見れないと言うのは少しばかり残念だな」
 それは彼が最後に見せた笑みに近いものがあり、星矢はやっと止まった涙が再び零れそうになるのを必死で我慢した。
「・・・アスミタの笑顔など初めて見るな」
「お前にも見えた、って事は現実なんだよな・・・」
 これを誰に伝えたとしても、幻覚を見たと言われるだろう。
 それだけ黄金聖闘士の中でも乙女座の聖闘士は謎の存在だった。
「次から次へと・・・エルシド、マニゴルド、アスミタ。すまんがこの場はお主らに任せるが呉々もワシを置いて行くではないぞ」
 この3人を誰が聖域に遣したのかを考えればこの場を離れたくは無いのだが、逆に彼らがここに居ると言う事はあの厄介な存在が何らかの理由で動けないのではないか、と童虎は考えた。
 ならば用事はさっさと済ませてしまうに限る。
 再度、青銅4人組にも動くなと念を押すと童虎はその場を後にし、シジフォス等の小宇宙が集まっている場へと急いだ。
 移動の最中、背後に増えた小宇宙に引き返そうかと悩んだが、今から戻った所でどうなる訳でもない。
「あやつ等ならば、何とかするじゃろう・・・」
 不測の事態に慣れている青銅聖闘士の判断に任せる事にし、前を見据える童虎の目は目的の人物を捕らえていた。




← 08 Back 星座の部屋へ戻る Next 00U →