〜言の葉の部屋〜

半神の願い scene-11



 星矢達の許を離れた童虎は、無言のままシジフォスと対峙していた。
 先程のエルシド達からは童虎の記憶にある彼らと比べておかしな所は無かった。
 かと言って、童虎の質問に対して目の前の人物達が素直に答えてくれるかどうかが、中々判断付かずにいた。
「童虎・・・お前が聞きたいのは皆がどうして冥闘士になったか、と言うことだろうな」
 童虎から切り出すまでも無く、シジフォスはあっさりと本題を持ち出した。
 同士として戦った者達を疑いたくは無いが、童虎の表情が険しくなる。
「そう怖い顔をするな。頼まれたんだよ。冥王と双子神にな」
「どういう事じゃ」
 冥王   ハーデス。
 双子神   タナトスとヒュプノス。
 その名は先の聖戦を戦った黄金聖闘士にとっても忌まわしき相手の名の筈なのだ。
 童虎の疑問にシジフォスは静かに言葉を続けた。
「全ては天馬星座の為だ。決して、冥界の為ではない」
 先の聖戦とこの度の聖戦の記憶が混乱してしまっている天馬星座の聖闘士をフォロー出来るのは同じ戦いを経験した者達のみ。
 しかし地上には先の聖戦の経験者がシオンと童虎以外に居なかった。
 そこでハーデスは星矢の魂を捜している最中にコキュートスで見つけた魂達を利用する事にした。
 コキュートスは神に拳を向けた魂が未来永劫封じられる場所。
 そこは聖戦で命尽きた多くの聖闘士の魂が封じられている場所である。
 ハーデスがそこで見つけたのは先の聖戦を戦った黄金聖闘士達の魂だった。
 死の眠りより呼び覚まされた彼らは、当初はハーデスの申し出を断った。
 天馬星座とは言え、自分達と共に命を掛けた天馬星座   テンマでは無いからと。
 今の天馬星座を助けるのは今の黄金聖闘士や彼の仲間の役目だからと。
 ハーデスは彼らの言葉を聴いてもその場を去らず、星矢の様子を彼らに見せ続けた。
 ヒュプノスはその力を介して天馬星座の過去を。
 タナトスはその力を用いて地上の天馬星座の様子を。
 その戦う姿は自分達の知るテンマよりも幾分幼く感じられたが自分達が希望を背負わせた少年の姿そのもの。
 その記憶の差異に苦しむ様は、痩せ衰えた身体と相俟って余計に痛々しく見えた。
「我らを動かしたのは天馬星座だ。随分と軟弱な姿になっているので、もう一度鍛えてやった方が良いかと思ってな」
 鬼と呼ばれた男が唯一の弟子とも言えるテンマを大切に考えていたのだと童虎は知っている。
「それに冥闘士と言っても建前上そうなっているだけで何の縛りも無い。もっとも原因究明に力を貸せとは言われているがな」
 目の前で豪快に笑うアルデバランから童虎が視線を外すと、他の者達も優しい笑みを浮かべていた。
 シジフォス等がハーデスから聞かされた話では、人として蘇らせる事も可能ではあるが200年以上も前に死んだ者を蘇らせるとなると自然の摂理に反する力と比例するように世界への反動が大きいのだと言う。
 その点、人ではないモノ   ハーデスにより生き死にが左右される冥闘士ならば反動は少なく済むのだと。
 ハーデスの気持ち一つで消えてしまう体ではあるが、この時代に対して不自然な存在である自分達には相応しい身体だとの結論に達し、冥闘士となる事を受け入れたのだった。
「しかしのぉ・・・お主ら。此処にも黄金聖闘士はおるのじゃぞ?厄介な事になるとは」
 考えなかったのか、と言う童虎の言葉は背後から感じられる激しい小宇宙のぶつかり合いにより遮られ、爆音が辺りに響いた。
「アスミタと・・・後の2つは」
「うむ、当代乙女座のシャカともう一方は一輝じゃの。全く、乙女座は世代を経ても困ったものじゃ」
 此処に来るまでに感じた小宇宙から予想出来ていた事態ではあるが、童虎の予想以上にぶつかり合う小宇宙は大きい。
「・・・一輝に任せておけば大事にはならんじゃろう」
 それでも起こってしまった事は仕方が無い、と1人納得する童虎。
 星矢の小宇宙を探れば、弟子達が自分の言い付けを破り移動させている様子が伺える。
「童虎、一輝と言うのは今の黄金聖闘士の1人なのか?」
 乙女座の黄金聖闘士2人に引けを取らない小宇宙の持ち主。
 それ程の小宇宙を持っている者をシジフォスが黄金聖闘士かそれに準ずる白銀聖闘士かと考えるのは仕方の無い事だった。
「一輝は青銅聖闘士じゃよ。今生の天馬星座の実の兄にして、あの鳳凰星座の聖闘士よ」
「鳳凰星座・・・実在したのか」
「聖戦後に見つかったんじゃ。それに星矢を含め、あの兄弟は揃ってエイトセンシズに目覚めておる。シャカやアスミタが相手であっても引けは取らんじゃろ」
 童虎が認めた男の魂を継ぎ、シャカ自身もその能力を認めている男。
 乙女座の技だけでなく双子座の技すらも幾度もその身で受けきり、大抵の技は一度その身に受ければ見切ってしまう能力の持ち主。
 一輝以上に乙女座の相手を任せられるものは居ないと、童虎は思っていた。
「案外、アスミタも負けるかもしれんのう」
 笑う童虎に対して、童虎以外の者達はそれは無いだろうと思いつつも感じられる小宇宙の大きさに、声に出して否定する事は出来ずに居た。




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