〜言の葉の部屋〜

半神の願い scene-10



「「天魔降伏!」」
 技と技がぶつかり合い、爆音と共に激しい衝撃波が周囲にまで及んだ。
「ほう、私の劣化版だというのに中々やるではないか」
「粗悪品が私に勝てる理由が、私には思い当たらないのだがね」
 同じ顔で同じ技を放つ、2人の人物。
 傲岸不遜な態度までそっくりな2人の周囲では7人が7人とも呆気に取られていた。
「ア・・・アスミタが2人!?」
 星矢の声にそれぞれが我に返る。
『おいおい、アスミタまんまじゃねぇかよ。誰だありゃ』
『同じ技と使うとなると当代乙女座かも知れんが・・・あの姿は・・・』
 突然、アスミタと同様の現れ方をした者に頭を悩ませる黄金2人。
 そして黄金2人以上に現在の事情を知らぬ青銅4人はと言うと。
『シャカが2人だと!?』
『1人でも厄介なのに・・・って兄さん!』
『1人だろうが2人だろうが、この俺が焼き払ってくれる!』
『待て一輝!気持ちはわかるが現状を確認するのが先だ!どちらかはシャカの偽者だろうが、あのシャカと対等に遣り合える奴なんだぞ!』
『その程度の事を気にしてられるか!ヤツは周囲の被害なんぞ考えん!』
 あぁ、それはそうかも。
 と紫龍、氷河、瞬が同意してしまうもの無理は無かった。
 目の前の2人からは全く容赦の無い小宇宙が発せられている。
「貴様等2人とも、さっさとこの場から失せろ!」
 一輝の言葉に黄金聖闘士は目を丸くし、青銅聖闘士はやってしまったと諦めの色を浮かべる。
『あのアスミタに失せろ、だと!?』
『・・・命知らずな・・・』
 シャカと一輝のこれまでを知らない2人には一つの命が散り逝く様がありありと脳裏に浮かぶ。
『やっちゃったね・・・』
『当然の成り行きといえば当然だが』
『取り合えず星矢を此処から避難させるのが先だな』
 最早一輝の行動に関しては慣れと化している青銅聖闘士にとっては自力で動く事が難しい星矢の心配へと思考を切り替えていた。
 この際、童虎の言い付けを守っている場合ではない。
 直接の余波が届かないようにと黄金聖闘士2人が壁になってはいるが、離れるに越した事は無いと判断し、一輝を置いて場所を変える事にした。
「ん?お前ら、何してんだ?」
 背後から近付き、星矢の車椅子を動かそうとした瞬だが目敏くマニゴルドに見つかってしまう。
 ちなみに星矢は現状が飲み込めず、先程の一言を発したあとは呆然としたままだ。
 余りの事態に脳の処理が追いついていないのだろう。
 幸いな事に頭痛を起こしている様子は無かった。
 最も、この場に現状を正確に掴めている者など1人としていないのだが。
「此処は兄さんに任せて、僕達は避難します」
「任せるだと?アレの相手を1人にか?」
「アレの相手は一輝が適任だとお前達も知っている事だろう」
 マニゴルドの呆れた声に何を今更と言う視線を青銅3人は返すが、当然の事ながらマニゴルドとエルシドにとって3人の行動は理解不能。
 自分達とて正体の掴めないアスミタの相手はやむを得ない場合であったとしても遠慮したいと言うのに、易々と1人に任せてしまう3人の神経が信じられなかった。
「「ほう、私に失せろと?」」
 案の定、同じ顔の2人から不機嫌そうに同じ言葉が発せられる。
「貴様の様な周囲の迷惑を顧みん人外魔境は暴れるなら自宮にしろと言っている!」
 その人外魔境にそこまで言えるお前は大したものだ、と心の底から関心するのはエルシド。
 今度からアスミタへの面倒は全部こいつに押し付けよう、と半ば無責任な考えをするのはマニゴルド。
 その人外魔境でも不可能と思われる生還を何度も果たしているお前は何なんだ、と突っ込まずには居られないのが青銅の3人。
「「私にそのような口を利いたことを後悔するがいい!天舞宝輪!」」
「この俺が一度食らった技を受けると思うか!」
 2人同時に放たれた天舞宝輪を一輝は己の小宇宙で防ぎきる。
『エルシド・・・お前、防げるか?』
『無理だな』
『だよなぁ・・・』
 一撃だけなら可能性はあるが、二撃同時となると格段に難しくなる。
「やはりアレの相手は一輝に限るな」
「全くだ」
「兄さ〜ん!後は頼んだからね!」
 笑顔で一輝に手を振ると、瞬はさっさと星矢の車椅子を押し始めた。




← 00U Back 星座の部屋へ戻る Next 11 →