〜言の葉の部屋〜

仮初の聖闘士 23



「で、シオン。オレ宛の手紙と言うのは?」
 そもそも、コイツが此処に来た理由はそっちなのだから早く渡せと促せば・・・どうにも子供達には見られたくないモノの様だ。
 口実とはいえそんなモノを此処に持ってくるな。
「・・・カノン、オレは少しコイツと出て来る。取り敢えず、手の空いてるヤツを連れてオレの部屋を開けておけ」
「了解。で、アンタの荷物は?」
「クロス達の部屋にでも突っ込んでおけ」
 マリンとシャイナには悪いが、部屋が無い現状としてはオレの部屋を使ってもらう以外にない。
 必然的にサーシャも一緒になってしまうが、女同士なのだから問題は無いだろう。
 そう考えながら。シオンを連れて住処の外に出た所で周囲に力の障壁を張り巡らす。
 こうしておけば、万が一サガやデスマスク辺りが聞き耳を立てていても声が漏れる事は無い。
「ある男からお前に頼みがあるそうだ」
「ある男?」
「・・・城戸光政と言う名を聞いたことがあるだろう」
「キド・ミツマサ?」
 何処かで聞いた覚えはあるが・・・顔が思いつかないな。
「アジア方面の情報提供をしているグラード財団の長だ」
「あぁ、あの爺さんか。そう言えばそんな名前だったな。それがどうかしたのか?」
 グラード財団はポセイドンが憑代にしているソロ家からの紹介で1年半くらい前に外部組織の一つになり、現在はアジア方面の情報収取やら情報操作を担っている。
 当初、オレも不思議だったんだ。
 何せ成人したセイントの殆どは候補生探しをしていて任務毎の情報収集を行っている暇など殆ど無い。
 かと言ってサンクチュアリ内にその様な能力に優れたモノは居ない。
 何処から正確な情報を仕入れているのかと思えば、何の事は無い。
 サンクチュアリの外にはしっかりと協力者達が居たと言う事だ。
 また、そういったヤツ等はかなりの財を成しているモノが多く、神殿への寄付もかなりのモノらしい・・・何れその寄付も神殿では無く、ソロ家の様にサンクチュアリ自体への寄付に変えさせるつもりだがな。
「うむ・・・私宛の手紙にも書かれていたのだが・・・自分の息子を聖闘士の候補生に出来ないかと言って来ている」
 何を馬鹿な事を、と思いつつ手紙の封を開けて読んでみれば、シオンが一言で済ませた内容が長々と書き連ねられていた。
 グラード財団を外部組織として認めていることからも、オレ自身あの爺さんから悪意を感じられなかったと言う事になるが・・・悪意は無いんだろうが、手紙を読み進めるにつれてあの爺さんが何を考えているのかが解らなくなってきた。
 サンクチュアリとの繋がりが出来たばかり故に、セイントになる為の過酷さまでは知らないと言った所かも知れないが。
「却下だな」
 半分まで読み進めた所で、オレが出した結論はそれ以外に無かった。
 今以上に世界の平和に貢献したいだと?
 なら自分が此処でセイントになる為の鍛錬を受けてみろと言うんだ。
 何故、息子に遣らせようとするのやら・・・あの爺さんの息子ならかなりの年齢になっている筈だと言うのに。
「・・・お前の手紙にも書いてあるだろうが・・・既に城戸の息子が聖域に居る」
「そんな訳ないだろう。それが事実なら、今更自分の息子をなんて言ってこないだろうしな」
 オレが把握している限りでは候補生にも神殿関係者にもその他、雑兵に至るまであの爺さんの息子らしき人間は居ない。
 と言うよりも、あの爺さんの息子ならば日本人なのだろうからこのサンクチュアリではかなり目立つ筈だが、その数少ない日本人はオレの住処に集まっている。
「私も驚いたのだがな・・・一輝と瞬が城戸の息子だと言う事だ。何と言うか・・・愛人の子らしくてな・・・」
 シオンの言葉を疑う訳では無いが、長々と書かれている手紙に再び目を戻し斜め読みすれば終わり近くになって一輝と瞬の名が書かれていた。
 確かにこれじゃ、あいつ等に聞かせる事は出来ない訳だ。
「いっぺん死んで来い、とキドの爺さんには伝えておけ。死んでもオレが冥界まで用件は聞きに行ってやるとな」
 オレが日本から一輝と瞬を連れ出した後に子供が行方不明になったと騒ぎになった時、キドの名も、グラード財団の名も出て来ては居なかった。
 一輝と瞬の名前や特徴はテレビでも報じられていたにも関わらず、だ。
 愛人の子だからと何もしなかったならば、キドに親の資格は無い。
「お前ならばそう言うとは思っていた。私も同感だ。だが・・・城戸のグラード財団が齎す情報も聖域にとって重要なのは解るだろう」
「情報ならオレが如何とでもしてやる。アンタの仕事の量を戻して、童虎にあと2〜3人分のセイントの仕事を押し付ければその程度の時間は作れるさ。それに・・・瞬はともかく、一輝にはこんな事実を教えたくは無い。自分達が辛い時に手を差し伸べなかった父親が実は大財閥の長だった、なんて知らない方が良いに決まっている。逆にキドにこう言ってやれ。これからもサンクチュアリと繋がりを持っていたければ一輝と瞬の父である事は忘れろ、ってな」
 グラード財団と同じ様な立場であるソロ家は、ポセイドンが憑代を使って此処に来たがっているってのに一度も此処に来させた事が無い。
 ポセイドンとしてはハーデスの憑代である瞬とスペクターまでもがサンクチュアリで過ごして居る事から多少の焦りがあっての行動なのだろうが、抜け出そうとしてもあの手この手で邪魔をされているらしい。
 先日、ポセイドンが念話で話しかけてきた時にうっかり応えてしまい、さんざん愚痴を聞かされたがな・・・憑代が子供だからだとか、己の力が戻ってないのがどうだとか。
 自分達が奉っている神の言葉でも息子はまだ幼い子供だからと従わない現ソロ家の当主は大したモノだし、それだけソロ家の人間が憑代である子供を大切にしているのが窺えた。
 だが・・・キドの爺さんはそれと逆の事をしようとしている。
「私の仕事の量を戻す案は却下するが、童虎に関しては許可しよう」
「・・・・・・」
 どちらかと言えば、セイント3人分の仕事をしている童虎よりもアンタの仕事量を戻したかったんだがな・・・
「しかし、子供が100人も居れば1人や2人は聖衣が待ち望んでいる者やも知れぬと思ったのだがな」
「・・・今、なんて言った?」
「まだ手紙を読み終わっていないのか。城戸には一輝や瞬と同じくらいの子供が約100人いると言う事だ。私としては聖衣の為にも会うだけ会って可能性を見て欲しかったのだが」
 オレの聞き間違いじゃなかったのか。
 三度手紙に目を通せば・・・確かに、そう書いてあるな・・・
「まぁ、クロスの為と考えれば可能性はあるだろうが・・・キドの様な考えの親の犠牲にさせる訳にはいかないだろう」
「そうだな。一輝の様に自分から聖闘士に成りたいと思うならまだしも・・・城戸には断りを入れよう」
「ついでに、その100人の子供の面倒はしっかりと見る様に伝えてくれ。オレは子供を大切にしない馬鹿の要望を利く事はない、ってな」
 神殿の馬鹿共がキドの話に乗らないかが不安だが、オレとシオンに直接手紙を送ってきている以上、馬鹿共との接触は無いと考えて良いだろう。
 そうなるとオレとシオンに繋ぎを取る様に教えたのはソロ家・・・いや、ポセイドンだろうな。
 ・・・まぁ、次に念話を使ってきた時にでも今回の件は礼を言っておこう。
 神殿の馬鹿共なら2つ返事で受け入れていただろうからな。
「・・・私に返事をしろと言うのか?」
「オレに書かせるつもりだったのか?」
 言えば何故か左右に首を振る。
 シオンの言い方から絶対にオレにやらせるつもりだと思ったんだが。
「書くのではなく、返事をしてきてくれ」
「・・・何処にだ。確かにギリシャに来る予定が入っているとは書かれているがまだ1週間以上も先の話だろう」
 ならば、先に手紙で返事を返したところで問題は無いだ・・・シオン・・・その顔は何かやらかしたな・・・
「うむ・・・実はだな」
「実は?」
「・・・手紙が届いたのは1週間以上前なのだ・・・」
「で、サーシャ達と遊ぶ為の口実を考えるまで忘れていたと?」
「う・・・む・・・」
 どうせ、執務机の上に適当に置いておいたら書類の山に埋もれたパターンだろう。
 何度も分類だけはしっかりやれと言っているのに一向に治る気配が無いのでワザとかと考えた時期もあったが、本気で無意識の行動なのだから性質が悪い。
「キドが来る正式な日程はいつだ」
「明日、だな」
「・・・アンタ、今日思い出さなかったらどうするつもりだったんだ?」
「その時はその時よ」
 清々しいくらいの開き直りだな。
 まぁ、これがコイツの強みでも有る訳だが。
「会談場所は?」
「アテネ市内のいつもの場所だ」
 面倒だが・・・仕方がない。
 此処には部外者を入れる訳には行かない。
 それが例え、外部組織の長だとしてもだ。
 そしてシオンが易々とサンクチュアリを出る事も叶わない。
 そうなるとシオンの代行として外部と連絡を取るモノが必要になる訳だが、神殿の馬鹿共に任せるつもりは更々なく・・・必然的にオレに回ってくる事になる。

 取り敢えずは、キドの爺さんに言いたい事を言ってくるかな。




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