〜言の葉の部屋〜

仮初の聖闘士 21



 さて、増えた2人の部屋を如何するかだが・・・この3年で此処もかなり賑やかになったからな・・・
 何せ、ゴールドセイント12人にその資格持ちが1人、シルバーセイントが14人、ジェネラルが5人に想定外のスペクターが5人、アテナのサーシャとハーデスの瞬、それと一輝。
 此処に今日からシルバーセイントが2人加わる訳だが、はっきり言えばまた部屋が足りなくなった。
 ・・・これで何度目の増築だ?
「今、戻った」
「おかえりなさい。あれ・・・瞬とサーシャは?」
「心配するな、一輝。人を案内しているだけだ。それより今日はもう鍛錬は終わりなのか?」
「・・・童虎が張り切り過ぎてバイアン達が怪我した」
 またか。
 あのシオン以上に人間離れしていた爺さんは如何して手加減が下手なんだ。
 此処に来て3年だぞ?
 幾ら若い身体が二百数十年ぶりだとは言え、力加減など3年もあれば慣れるだろうが。
「怪我の具合は?」
「ムウ達が治療してたから大丈夫だと思う。シンを呼ぶほどじゃないって言ってた」
 命に係わる様な怪我じゃないと言う事か。
 今回の罰として童虎には倍の任務をこなしてもらう事にしよう。
「・・・あの、さ」
「なんだ?」
「童虎がセイントになるなら師匠になっても良いって言ってたんだ。オレも皆みたいになれば瞬とサーシャを守ってやれるのか?」
 童虎め・・・余計な事を。
 実を言えば、一輝を呼んでいるクロスはある。
 あるんだが・・・
「一輝、その話はお前がもう少し大きくなったら改めてしようと今日話したばかりだろう」
 治療が一段落した様で、奥の部屋からぞろぞろと出てくる。
 ・・・一体何人怪我をしていたんだ・・・
「サガ・・・けど、イオもソレントもオレと同じ位なのに何でオレだけ駄目なんだ!」
 それはコイツ等がお前に甘いだけの話だ。
 セイントとしての過酷さを知っているが為に、ならずに済むならそのままで居させて遣りたいってな。
 だが、そう思いながらもいざと言う時に己の身は守れる様にとコスモの扱い方まで教えているんだよな・・・コイツ等は。
 オレとしても一輝から言ってこなければそのままで居させてやるつもりでいたんだが、子供ながらに真剣に考えているなら話は別だ。
「まぁ、師に童虎を選ぶのは問題だが・・・一度クロスに会ってみるか?」
「・・・え?」
「シン・・・如何言う事だ」
「一輝を呼んでいるクロスがある」
 自分の対が海に触れなければ解らない様なスケイルや、自分と一体となる者の元に自ら飛んで行けるサープリスと違い、クロスは自分の主になれる可能性を持つモノが生れた瞬間からその存在を感知しながらも身動きが出来ないモノ達だ。
 その為、一輝と瞬が此処に来てから早く会わせろと煩く言ってきているクロスが居る。
 声が聞こえるのも、アプスと約束をした時にほとんどのクロスと接触したのが原因なんだろうが、アイツは初めて呼びかけてきた時のスケイル以上に煩くてしつこい。
「ブロンズか?シルバーか?」
「一輝なら立派な冥闘士になれると思ったのに違ったんだ」
「ちぇ・・・セイントだったのかよ。海龍か海魔人の可能性もあったのにな」
 女3人よれば姦しい・・・ではないが、三界の面子が揃っている上に人数が人数の為、話し始めると収拾がつかなくなるのは悩みの種の一つだったりもする。
「取り敢えず静かにしろ。今、クロスを呼ぶから全員少し離れてくれ」
 子供達とオレとの間にクロスが置けるだけのスペースが出来た所で、アプスと会った時の様に疑似コスモを広げていけば   悪い、アプス・・・今回はお前じゃないんだ   サンクチュアリの外へと広げ、更に外へ外へと広げる。
 南太平洋にある小さな島で眠っているクロスの意思を掴み、一輝にセイントになるかどうかを決めさせる為にサンクチュアリに来てくれるようにと頼めば、オレの力に素直に引き寄せられてくれた。
「これが・・・?」
「あぁ。お前が本気でセイントになるなら纏う事になるだろう鳳凰星座のクロス   フェニックスだ」
「鳳凰星座・・・」
 ・・・何だって鳥系のクロスはこうも気が早いんだか。
 オレは一輝にセイントになるかどうかを決めさせる為にお前を呼んだんだがな。
 一輝はフェニックスと一言クロスの名を呼んでやっただけだというのに、勝手に開いて纏わりついている。
「鳳凰星座って・・・青銅最強って言われてる聖衣だろ!?」
 そう、そして最大の問題児だ。
 何せシオンの記憶じゃ前の大戦の時にはきっちり88星座が揃っていたと言うのに、その後発見されたクロスで、コイツ自身もそれ以前の事は覚えてないって言うんだからな。
 その上、おかしな事に発見されてからも一度も鳳凰星座のセイントは現れていないというのに、カノンの言ったように【最強のブロンズクロス】といった噂だけが語り継がれている。
 なんでそんな噂が立つんだか。
「それでだ、一輝。お前はセイントになると言う本当の意味を理解しているのか?このサンクチュアリにはそうとは望まずにセイントになったモノも多数いる。カーサ達の様なジェネラル、シルフィード達の様なスペクターと違い、セイントは己の意思で辞める事が出来るが・・・自分の意思でなる以上、途中で投げ出すような事はしないで欲しい。お前がセイントを辞めたなら、その瞬間からフェニックスは再び自分の主になる可能性を持つモノが現れるのを待つ事になるんだ。やっと待ち侘びた主が生きているにも関わらず、な。だからお前がセイントを辞める時は次のフェニックスの主をお前が見つけてやってからにしてくれ」
「オレが・・・見つける?」
「あぁ。シオンとムウを見れば解るだろうが、師弟関係を持つ者に自分のクロスを継がせる事は結構ある。シオンに言わせれば見た瞬間にアリエスを継ぐのはムウだと思ったらしい。お前が死んでしまった後の事まで責任を持てとは言わない。だが、生きている間はクロスに対する   お前の身を護ってくれるモノに対する責任を果たして欲しい」
 こんな事は5歳の子供に考えさせるような事ではないと解っている。
 普通に、普通の環境で育っていればこんな決断を迫られはしないのだと。
 それでも主を待ち望むクロスの、己の主となれる可能性を秘めたモノが産まれた事を感じた瞬間のクロス達の喜びをオレは知ってしまっている。
「クロスによっては主がセイントでいる間に次の主になれるモノが産まれる事がある。逆に・・・前の主が死んでしまってから何百年もの間、次の主になれる可能性を持つモノが中々産まれない事もある。そしてお前はフェニックスが初めて得た主になれる可能性を秘めたモノだ。お前が名を呼んだだけでお前に纏わりついた事からも喜んでいるのだと解るだろう?お前はコイツを   フェニックスを大切にしてやれるか?」
 瞬とサーシャを護りたい。
 一輝のその気持ちは幼いながらもサガ達と遜色はない。
 そしてフェニックスが纏わりついている以上、一輝の中には既にセイントになる気持ちもコスモも十分にあるのだろう。
 後はそれを決意として言葉に出来るかどうか。
「なる。オレも聖闘士になって瞬とサーシャを護ってやるんだ。鳳凰星座の聖衣も絶対に大切にする。シンと風鳥星座みたいな聖闘士になるよ」
「良くぞ言った!ならばワシが師   
「アンタは黙ってろ」
 チッ・・・盾でガードしたか・・・
 唐突に入って来たかと思えば、何をふざけた事を。
 それにな一輝・・・セイントとしての目標をオレにするのはどうかと思うぞ。
 オレはアプスの正統な主じゃないんだからな。
「カノン、サガ、ロス。鳳凰星座には師となるモノが存在しない。今まで通り、お前達が鍛錬を見てやってくれ」
 本来ならばフェニックスの居た島   デスクィーン島に封じられていたセイント崩れ達の見張り役であったギルティーが師になるべき存在なのだろうが・・・アイツもオレと同じで此処の連中が嫌い・・・いや、アイツはサンクチュアリ自体を憎んでいるからな・・・
 調べてみればサガ達の前の双子座の片割れであり、オレが此処に来た当時のカノンと同じ状況で育てられ・・・兄がゴールドセイントの位を返上したのと同時にあの島へと厄介払いされ役目と言う名目で素顔すら仮面で封じられたと言うのだから、憎むのも頷ける。
 ギルティーの兄   サガの師であり、サガが双子座のゴールドセイントになった時にサンクチュアリを去った元双子座のイノセントにも直接話を聞いてきたが、彼は自分が役目を退いた時に弟であるギルティーもサンクチュアリから解放され自由を得たという馬鹿共の話を信じ切り、自分の影として縛り付けられていた弟が自由になったのならば目の前に自分が居ては不遇だった頃を何時までも忘れられないだろうと考え、探す事はしなかったのだと言う。
 ギルティーの現状を   真実を知ったイノセントは弟に逢いたいと言ってきたが、ギルティーは今更だとそれを拒絶し、諦めきれないイノセントはデスクィーン島にほど近い島へと居を移し、弟が一目でも会う気になってくれる日を待つことにした。
 この件に関してはオレが此処に来る前の出来事だが、余りにも酷い双子座の扱いにシオンを問い詰めれば、シオンはシオンで先の聖戦後、各宮のセイントに関する育成方針などはそれを最も熟知しているであろう各宮や修行地で生き残った神官達に任せてしまったのだと言う・・・聖戦で生き残ってしまったが為に引き継いだ地位であり、その後はたった1人で教皇としてサンクチュアリを再興しなければならなかったシオンばかりを責める事は出来ないんだが・・・何とも遣りきれない話だ。
 結局、オレがギルティーにしてやれた事と言えば無理矢理押し付けられた役目から解放して遣る程度しかなく、島内に封じられているヤツ等を一掃   ブラックセイント達のコスモを封じてクロスの模倣品を破壊してやる事しか出来なかった。
 役目から解放されたからとギルティーの中の憎しみが消える事は無かったが、今はデスクィーン島で仮面を捨てた、素顔をさらした状態で生活をしている。
 時折カノンを遊びに行かせているがカノン曰く「手ごわい爺さん」だそうだ。
 それでも同じ環境に居たカノンには多少打ち解けてくれているらしく、今ではほんの気まぐれ程度に笑顔も見せてくれるようになったらしい。
 オレが此処に来る前の事にまでこれ以上進んで手を出すつもりは無いが・・・例えオレが居なくなったとしても、同じ様な過ちを繰り返さないで貰いたいモノだな。




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