〜言の葉の部屋〜

偽りの教皇 04



「聖域の闇・・・ですか・・・」
 アイオロスの遺骸に処置を施した後、オレはアテナに話をし始めた。
「そうです。このサンクチュアリの抱える闇の原因は遥か昔よりサンクチュアリが抱えてきた矛盾に起因いたします」
 女神と共に地上の平和の為に戦い、人々を護って来たセイント。
 そのセイントが護るべき対象でもあり、自分達と同じ【人】を殺す矛盾。
 神には想像する事も出来ない、セイントが【人】であるが為に生まれた葛藤。
 それが・・・過去に多くのセイントが闇を抱えた原因だとオレは考えていた。
「サガに生まれた闇の人格。それもまた、サガがこの矛盾に悩まされたが為に生じたのでしょうな」
「では・・・私が戻るまでの間、黄金聖闘士達はそのような辛い思いを・・・」
「アテナは私がそのような事を子供等にさせるとお思いですかな?」
 言えばアテナは目を見張った。
 そして事情を知らぬ5人のゴールドセイント達も。
「全ての依頼は教皇を通してセイントに通達される事はご存じかと思いますが、子供等へのそうした依頼は全て私の所で止め、対処しておりました。セイント達に無益な殺生はさせておりません」
「では・・・貴方が・・・?」
「私の両の手は此方に来る遥か以前から紅く染まっておりますし、その程度の事で闇を抱えるような純粋さは持ち合わせておりませんのでご心配召されるな」
 性悪のくせにこういう所で悲痛な顔をするから余計に性質が悪い。
 オレは殺しを【その程度】で済ませられるヤツなんだから気にする意味がないんだと言っているんだが・・・
「セイントを大事に思うのならば、今後は殺しを目的とした依頼は全て断る事を進言させて頂きます。交渉にて提示される額はそれなりに大きなものですが大半はセイントに渡る事になっておりますので、断った所でサンクチュアリの財政には然程影響もありません」
 闇の色の濃い仕事は報酬も巨額だが、その対価の殆どがセイントに渡る様になっていた。
 汚い仕事の対価で神聖なるサンクチュアリを賄うのは嫌だという反発が、過去にあったのかも知れない。
 オレにとっては汚い仕事だろうが何だろうが関係ないので、報酬は有難く蓄えさせて貰っているが。
「解りました。アテナの名において、今後は一切引き受けぬ様にさせましょう」
「ありがたく存じます」
 本当ならば下の5人には知らせたくなかったんだが、サガが闇を抱いてしまった原因を教える為にも話すしかなかった。
 それにはサガ本人も承諾している。
 尤も、此処にブロンズの子供達が居るのは計算外だったが。
「なぁ・・・聖闘士ってアテナの為に戦うだけじゃなくて、そんな事までしてたのか?」
「この様な嘘を吐く意味はあるまい。それに考えてもみよ。サンクチュアリにどれだけの人が暮らしているか。その者達の生活を賄う為にもセイントは各国からの依頼を受け、その代価でもってサンクチュアリで暮らし働く人々を支えてきたのだ。勿論、殺人を主とする案件よりも人を護る案件の方が遥かに多いがな」
 人を守る為に人を殺す可能性の有る依頼は多々あるが、それはそれで仕方のない事だろう。
 戦場で多くの無力な者達を守る為に武装した相手を行動不可能にする。
 相手が抵抗を止めなければ、命を奪わざるを得ない時がある。
 そういった依頼の場合でも判断は全て請け負ったセイントにオレは任せていたが、そういった場合でも殺人を犯すセイントは1人も居なかった。
「・・・聖闘士の事を甘く考えてた気がする。聖衣が欲しかったのも全部オレは自分の為だったから」
「姉の為、であろう?それはそれで構わん。護りたいモノを持つモノは、持たぬモノよりも遥かに強くなれる。親兄弟、恋人、友人、仲間・・・護りたいモノが何であれ、な」
 言外に性悪女神の為に戦わなくても良いと言っている事に気付いて欲しくないヤツに気付かれてしまった。
 この後、どうやってサガから逃げるかな・・・
「・・・オレ今より強くなりたい。姉さんだけじゃなくて、兄弟も仲間も守れるようになりたい。だから・・・その・・・頼みがあるんだけどさ」
「なんだ?」
「え・・・っと・・・なんか教皇のあんただと言い難いな」
 何度も思うが、話し方が違うだけでオレは二重人格な訳では無いんだが・・・コイツ等の中では別人設定なのか?
「・・・これで良いか?」
 兜を脱げばあからさまにホッとした様な表情に変わる。
 どちらもオレなんだがな・・・
「あ、うん。あのさ、オレ達にも稽古付けてくれよ。アイオリアと一緒にオレの面倒見てくれてたけど、組手とかはいつも魔鈴さんだけだっただろ?アイオリアに聞いたら昔はあんたに稽古みて貰ってたって言うしさ」
 ・・・此処でその話が蒸し返されるのか・・・
 良いタイミングで性悪女神が話を逸らしてくれたと思って安心していたと言うのに。
「お〜い、天馬星座。その話はこっちが先だ」
「え?えっと、あんたは確か・・・」
「蠍座のミロだ、って前に自己紹介はしただろうが。あのな、その話に関しちゃオレ達がまだコイツを問い詰めてる最中なんだ。お前は後にしろ」
 問い詰められるような事は何一つしていないとオレは断言できる。
「その話だがな・・・お前達はなんでセイントでも無いオレと組手をしたがるんだ?そこにセイント最強のサガが居るだろうが」
「そのサガを一撃で殺したのがアンタだって事、忘れたのかよ」
 そうだったな・・・
 そう考えると此処で一番強いのはセイントでも無いオレと言う事になるのか。
 だが・・・ゴールドが9人にブロンズも確か9人・・・流石に勘弁願いたい。
「解った。ただし、オレも1人でお前等全員の相手をするのは教皇の実務もある上に、ハッキリ言って面倒だ。だから毎月1組限定で相手をしてやる」
「1組とは?」
「ゴールドとブロンズでペアを作れ。1ヶ月間そのペアで修練し、月末にブロンズのトーナメントを行う。それに優勝した組は翌月にオレが手合せをしてやろう。ブロンズは実力を試され、ゴールドは指導力を問われるって事だ。ペアは月毎に変えても構わないが優勝したペアは必ず、翌月はトーナメントには不参加とする。これでどうだ?」
 こうすればオレの平穏も約束されるだろう。
 どうせ教皇の仕事は休みなく入っているんだからな・・・月に数度の組手が増えた所で如何と言う事は無い。
 問題は此処にシルバーが絡んできた時だな・・・アイツ等も根は素直なんだが・・・その時はその時で何か考えるか。
「しかし、それではアイオロスが戻った場合に黄金聖闘士が1人多くなってしまうが・・・」
「そこは蘇ったばかりでブランクのあるお前かアイオロスのどちらかが交代制にすれば・・・何を不満気な顔をしている」
 デスマスク達に言わせれば、以前のサガは此処まであからさまに不満を顔に出す様な人物ではなかったと言う事だ。
 人格が統合された事で押し込めていたモノも表情に出るようになったのだろうが・・・昔を知っているモノにとっては違和感を感じ得ないらしい。
「あの、その事でしたら兄さんが見つかれば何とかなるかと・・・」
「まだ兄弟が居るのか?」
 ブロンズの9人は全員母違いの兄弟だと聞いているんだが更に1人いるとは。
「瞬と母親が同じ奴で鳳凰星座の一輝ってのが居るんだよ。ただ・・・今、行方不明でさ」
「ならば探せば良いだろう?」
「見つからないんです。沙織さんにも財団の情報網を使って探して貰っているんですが」
 ただ単にその情報網とやらを扱っているヤツが無能なだけだろうな。
「仕方ない。シュン、お前とは父母が同じなんだな?」
「はい」
「なら、今からイッキの居る場所を見せてやるから、場所を特定して探して来い」
「はい・・・って、そんな事が出来るんですか?!」
「兄もセイントなのだろう?ならば簡単だ」
 シュンの右手をオレの左手に乗せ、オレの右手をシュンの額へと当てる。
 親子兄弟と言うのは発するモノ   この世界の場合はコスモの波動が近い。
 一番近くにあるのはセイヤ達のモノ。
 少し離れた所に居るのは他の兄弟達だな。
 さらに範囲を広げれば・・・1つ、かなり強いコスモがあった。
「見えるか?」
「・・・此処は・・・火山、ですか?火口に人の姿が・・・」
「悪いが、オレには映像は見えて無い。場所の特徴はお前が覚えろ」
 この力の難点は、オレ以外にしか使えない所だ。
 それも探すモノと探したいモノとの繋がりが弱ければ、見つける事が困難になる。
「火山・・・」
「シャカ、何処か心当たりがあるのか?」
「古より聖闘士が傷をいやす場所がある。地中海にあるカノン島という火山を有する島だ」
 そんな島があったのか。
「場所を知っているならシュンと共に行って来い」
「・・・私が?」
「空間移動をすれば一瞬で済むだろう?逃げられる前に捕まえてこい」
 傷を癒す場だと言うなら、治ったら居なくなる可能性がある。
 シャカを行かせるのは不安もあるが、実弟のシュンが一緒ならば大丈夫だろう。
「あのさ、今ので・・・オレの姉さん探せたりって出来るのか?」
「セイントの様にコスモが強ければ簡単だが余り弱いと精度は落ちるな」
「そっか。今度、時間のある時で良いからさ、一度頼んで良いかな?姉さんの手がかりがまだ何も見つからないんだ・・・」
「・・・お前が候補生の内に探してやれば良かったな。そうすればお前はセイントなどになる必要は無かった」
 姉を探しているとセイヤから聞かされた時に、正直オレは迷った。
 迷った結果、特殊な力を使う事で怪しまれてはと考え、力を使わなかった。
「う〜ん、でも此処にいた頃のオレって聖闘士になれば城戸の爺さんが姉さんを見つけてくれるって思ってたからさ。きっとシンが探すって言っても断ってたと思うぜ」
「・・・今から探すか?」
「い、今は良いよ!個人的な事だし、姉さんが見つかる可能性があるって解っただけでさ」
「そうか。なら話を戻すが、これで人数の件は何とかなるな。あとは・・・デス。ブロンズのトーナメントで賭け事は禁止だ。ディーテ、ミロ、リアも誘われたからと乗るなよ」
「げっ・・・何で解ったんだよ・・・」
「お前が遣らない訳が無いだろう。発覚した場合は全額没収の上、参加禁止にするからな。それとカミュ。お前は弟子とばかり組むな。ヒョウガと組むのは半年に1度にしろ。破った場合は二度と組めなくなると思え」
「・・・解った」
 やはり弟子とだけ組むつもりだったか。
 となると、だ。
「リアもセイヤ以外とも組む様に。目標としては全員が一巡してくれると良いんだがな」
 今いるブロンズ達は結構性格が分かれている上に、攻撃の特性も違う。
 コイツ等も今後、弟子をとる事になるだろうから今の内に様々なタイプの面倒を見させたい所だ。
「あの、1つ聞いても宜しいかしら?」
 まだ居たのか、性悪女神。
「話を聞いていて疑問だったのですけど・・・何故、牡羊座と天秤座は話に出てこないのですか?」




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