〜言の葉の部屋〜

半神の願い Secondscene-02



「か・・・じゃない、パルティータさん!?」
 目の前にいる女性は夢の中で見たテンマの母、その人だった。
 兄弟達のお蔭で今此処に存在している自分は【星矢】であり、【テンマ】は自分でありながらも自分では無い存在   前世の自分として認識出来ている。
 その時の力の扱いによって今も尚、兄弟達は寝込んでいるのだが彼らの内数名が星矢の姉であり【自分達の姉でもある】星華の看病を嬉しそうに受けている様子に、星矢が拗ねたのは十二宮で知らない者は居ない。
 そんな星矢の目の前に、夢の中以外では会う事は叶わないと思っていた前世の母の姿あったのだから混乱せずにいられる訳が無かった。
「あ、え、ちょっ・・・なんで?なんで、か・・・パルティータさんが此処に!?」
「母さん、で良いわよ」
 涙を浮かべながらも微笑むその姿に、一瞬星矢も迷ったが首を左右に振った。
「パルティータさんはテンマの母さんだから」
 例えそれが自分の前世だったのだとしても。
 いや、自分の前世だからこそ、テンマの大切な存在を奪いたくは無いと星矢は思った。
 今、姉を兄弟達に取られて悔しい想いをしている為、余計にそう思ってしまった。
「・・・そう。でも私にとってはテンマも貴方も大切な子。あの子に出来なかった事を、貴方から奪ってしまった時間を、貴方に返してあげたいの」
「星矢から奪ってしまった時間・・・?」
 アイオロスの言葉にパルティータは頷いた。
 もう、彼らに話しても良いだろう。
 星矢が現れた事で自分の存在は星矢の関係者として彼らに認識された。
 ならば全てを話しても理解して貰えるだろうと。
「私は先の聖戦の折にアテナ様よりお許しを得て、天馬星座の聖闘士の母となる大役を頂きました。その時に自分に誓ったのです。今後、如何なる時も天馬星座の聖闘士の魂と、人としての時間を私は命に代えても護ると。テンマを産んでからはその想いは強くなりました。使命では無く、1人の母親として。辛い戦いに巻き込まれる運命ならば、せめてそれまでの間は幸せにしてあげたいと」
 だからこそ、追手から逃げている間もテンマに課せられた天命を伝える事はしなかった。
「なのに私はテンマを幸せにしてあげられなかった・・・それどころか、テンマに力を与える為にと私を殺させ、私の我儘で星矢・・・貴方を護る事も出来なかった」
 夫となった杳馬と共に眠る道を選んでしまった事で、今生の天馬星座の魂の傍らに寄り添う事が出来なくなってしまったのだと、パルティータは語る。
「・・・オレは最後まで幸せだったよ。一緒に旅をしていた時も、辛いと思った事なんて無かったんだ。1人になってからもアローンとサーシャが傍にいたしね。まぁ・・・母さんが敵として現れた時は悲しかったかけど、それでもまた会えて嬉しかったんだ。パンドラが来るまで母さんが望むなら、殺されても良いって思えるくらい、母さんの事が好きだった。それにさ、母さんが杳馬を抱えてオレの前に現れた時、オレ杳馬なんて大嫌いだった筈なのに2人がずっと一緒にいられたらなって思ったんだ」
 目の前に居るのは星矢なのだろうか、とアイオロスとシジフォスは己の目を疑った。
 アイオロスは今よりも少しばかり大人びた星矢の表情に。
 シジフォスは己の見た事のある意志の強い少年の表情に。
 パルティータはその言葉が星矢では無くテンマが語っているのだと気付いていた。
「それにさ」
 そして言葉を区切った瞬間に少年の表情が再び変わる。
「姉さんや魔鈴さんがいたから、不幸なんかじゃなかった。姉さん以外に兄弟が9人もいるし、此処にも兄貴みたいな人達が沢山いる。目が覚めてからはポセイドンやハーデス達もオレに気を使ってくれるしさ。だから、パルティータさん。オレは今、幸せだよ」
 自分の運命を憎んだ事もあった。
 苦しい事も。
 悲しい事も。
 痛みを伴う事も。
 それでも、今は幸せだと星矢はパルティータに伝えた。
 テンマの記憶を得てからは、親の愛情というものも知る事が出来た。
「今も、さ。オレの事、護ってくれたんだって知ってるぜ?杳馬がオレに何をしてくれたのか、アスプロス達から聞いたんだ。オレの為に溜めてた力を使っちまって眠りにつくって聞いて、お礼も言えないんだなって思ってたんだけどさ」
 パルティータに冠してはそれらしき存在が傍らにいたと聞いただけだが、何故此処に、それも肉体を得て存在しているのか。
「・・・その事で、双子座の聖闘士の力を貸して欲しいの。あの人が消えてしまう前に」
「あの人って・・・まさか、杳馬!?」
「私はずっと一緒にいるって、消える時も一緒よって伝えたのに・・・あの人は魂の形すら保てなかった私に・・・」
   パルティータちゃんが消えちゃったらオレが辛いんだよね。もうあんな思いは一度でいいや。今度は悪い男に捕まるなよ、なーんて、オレが言えることじゃないけどな。
 それがパルティータの耳に残っている最後の言葉だった。
 気が付けば地上におり、失った筈の肉体も得ていた。
 あんなに弱った状態で。
 それでも尚、無理をして。
 子の   星矢の傍にいられる様にと。
 その想いを汲み取った時、パルティータは迷った。
 杳馬の願いを受け入れて星矢の傍にいるか。
 それとも、自分の願いを貫いて杳馬の傍に居続けるか。
 今の星矢には多くの支えになる人たちがいる。
 が、独り消えようとしている杳馬には自分以外に誰も居ない。
 誰にも・・・人間どころか神々にすら知られる事なく消えようとする杳馬を独りになど、パルティータには出来なかった。
「解ったよ、パルティータさん。オレからも頼んでみるよ。アスプロス達は嫌がるだろうけど、サガ達なら協力してくれるだろうしさ」
 とは言いつつも、最終的には何だかんだと文句を言いながらもアスプロスとデフテロスも手を貸してくれるだろうと確信している星矢だった。




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