〜言の葉の部屋〜

海渡の聖闘士 第02話



「蟹!キョーコーは?」
「ルフィ・・・蟹って呼ぶんじゃねぇって何度言わせんだ!教皇ならほれ、下りて来たぞ」
 借りている部屋から下りてくれば、ルフィとデスマスクが此方を見ていた。
 どうやらルフィはこの酒場で食事を取る事が習慣になっているようで、オレ達が世話になるようになってからも毎日姿を現している。
「キョーコー!今日も海に行くんだろ!」
「そうさな。では、共に行くか」
 岬へ赴くのが日課になったのは、オレ達がこのフーシャ村に着いてから4日目の出来事が発端だった。
 村の港に向かって3隻の船が向かって来た際、村人たちは特に警戒した様子も無かった。
 海賊が多く存在するこの世界では村や町に海賊が立ち寄り、物資の補給をして行く事が珍しくないからだったのだが、その船からはこの村に対する悪意が溢れていた。
 村人たちに混じり港に向かえば案の定、船から下りて来た海賊たちは武器を振り回し、村を侵略しようとする。
 世話になり、シュラが用心棒を請け負っている以上放っておくわけには行かず4人揃って手を出してしまったのだが、この海賊たちは余りにも弱すぎた。
 殺して良いモノか判断出来なかったオレ達は念の為、生け捕りにする方向でかなり力を押さえて動いたにも拘わらず数分で海賊船の鎮圧に成功。
 村人からは感謝され、海賊の船長に掛かっていた懸賞金が海軍と呼ばれる一団から支払われた。
 海賊の船に関しても此方の好きにしてよいと言う事だったので財宝関連は村長に渡し、丈夫そうな1隻だけを残して2隻は解体し村で使う薪燃料として保管されている。
 その後4人で話し合った結果、当面の資金集めとして海賊の懸賞金を得る事になったんだが・・・懸賞金の掛かっている海賊の多い事多い事。
 額もピンキリだが、この海はそれほど強い海賊は存在しない上に懸賞金が掛かっていても一般人には手を出さない海賊も含まれているとかで村人たちから「狩っても良い海賊」と「狩らないで欲しい海賊」を教えて貰い、海賊狩りを実行に移した。
 元々、この島近辺には余り来ないようだが力を使って悪意を探せば簡単に海賊は見つける事が可能であり、主に海賊の対処に向かうのはシュラの役目でオレが見つけた悪意の方角と距離を頼りにデスマスクの空間移動で海賊船を強襲。
 金品と賞金首が居た場合は対象を確保して合図を受けたデスマスクの空間移動で戻って来る、と言うのを繰り返し資金に関してはかなりの額が溜まり始めている。
 この行為により、この次元へ来て1ヶ月足らずだと言うのにシュラには『海賊狩り【無手】のカプリコーン』という通り名まで海軍によって付けられていた。
 目立ちたくは無くとも、懸賞金を受け取る必要性からこればかりは仕方が無いと思っている。
 そしてオレの日課である海賊探しにルフィは何故かついてくるようになっていた。
 出会いで食べ物をあげてしまった事で懐かれたのは解っていたが、ついて来ても何をする訳でもなく共に海を眺めている。
 不思議に思い聞けば、このフーシャ村を拠点としている海賊たちの戻りを待っているのだと嬉しそうに語っていた。
 ルフィはその海賊団に入りたがっていると言う事なんだが・・・子供が海賊に憧れる環境とは何とも言い難い上に、村長以外でルフィを嗜めるもモノが居ないと言うのもおかしいのではないだろうか。
 デスマスク曰く「ガキの内は悪いモンに憧れたりするもんなんだよ」との事だが、憧れのレベルでは無さそうなんだがな・・・
 いつもの岬へ到着し、力を広げて気配を探ればいつもより近い距離に複数の人間の気配が感じ取れた。
 悪意は感じられないが真っ直ぐにこちらを目指して来ている。
「村長の報告した方が良いのであろうな」
「なんかあったのか?」
「この村を目指している一団がいる。悪意が無いので、もしかすればお前の待っている海賊やも知れぬがな」
「ホントか!?なぁ、あとどれくらいで此処につくんだ?」
「そうだな、距離からすれば昼過ぎには到着するであろうよ」
 早く村に戻ろうと急かすルフィを連れて村に戻れば、ルフィから話を聞いた村人たちが出迎えの準備を始めた。
「キョーコーってスゲェよな!全然見えねぇのに解んだからさ!」
「この程度の事しか、アヤツ等がさせてくれぬのでな」
 村人達は顔に大怪我を負っている為に兜を目深に被り顔を隠している主   この設定も3人が勝手に決めたのだが   を3人が気遣っていると思っているのだが、実際はサンクチュアリへ戻る為の次元の歪みを探せるのがオレだけなのでオレはそちらに時間を割けと言われてしまっただけの話だった。
 尤も、次元の歪みなど草々発生するモノでは無い上に特定の次元へとなれば発生率は更に低くなる。
 希望があるとすればこの次元の異物であり、且つ向こうの次元に属する3人が傍に居る事と使用している器が向こうの世界の神であることだろう。
 これが今迄のオレだったならば向こうの世界に属していない為、次元と次元が直結していない穴に落ちるしか直前の次元に戻れなかったりするんだが。
 なんにせよ、世界は己に属さない異物を嫌い、己に属するモノは引き戻そうとする習性がある。
 その力を読み取れれば、後は時間軸の調整だけで戻る事は可能だ。
 読み取れれば簡単なんだが・・・今の所その力が発生する気配はなく、オレだけが遣る事の少ない暇な日々を過ごしている。
 サンクチュアリに居た時は教皇としての責務が多くもう少し減らしても良いのでは、等と思った事もあったが暇に比べれば忙しい方がまだマシだったな。
 うろうろしているルフィを準備の邪魔にならない様にと肩に乗せていれば、船が目視できる距離まで近づいて来ていた。
 確認出来た旗印を伝えれば、間違いなく村人たちが待っていた船だと言う。
 酒場の様子を窺いにいけば、デスマスクは料理を作るのに大忙しでアフロディーテも店内の座席の準備やらに追われている。
 シュラはマキノと共に追加の食材や酒類の買い出しに出かけていた。
「ニシシシシ、きっとシャンクス達にキョーコー会せたら喜ぶぞ!」
「シャンクス?」
「赤髪海賊団の船長だ!」
 ルフィが海賊に憧れている原因か。
 村人の歓迎ぶりや船からこの村へと向けられている感情からすれば、悪い奴らで無い事は解る。
 船影が近づくにつれ、村人たちの熱気も増した。
 赤髪海賊団の船が接岸し海賊たちが次々と船から下りてくると、ルフィはオレの肩の上から海賊たちに向かって手を振っていた。
 その姿に気付いた麦わら帽子を被った赤髪の男がオレに向かって警戒心を露わにする。
 見知らぬモノが居れば当然の事だろうが、この男もまたルフィやこの村のモノ達を大切にしているというのが良くわかった。
 肩からルフィを下ろしてやれば、一目散に赤髪の男に駆け寄り何やら話し始めている。
 こちらを指差している事からオレの事を訊かれて説明しているのだろう。
 ルフィがどう説明したのかは解らないが、オレに対する警戒心は薄れてきている。
 それでも村人たちとの語らいの場にオレは邪魔だろうと判断し、先に酒場へと戻る事にした。
 酒場に戻れば大量の料理が並べられ、酒樽が山積みになっている。
 デスマスクとアフロディーテ、そして店主であるマキノは店内にいたが騒がしい場所が苦手なシュラは部屋に戻っていると言う事だった。
「アンタも部屋にいて良いぜ?」
「そうだな。此処は私と蟹の2人で充分だ」
「この魚が!蟹は止めろって言ってんだろ!ルフィが真似して止めねぇんだからよ」
「名が広まるよりマシだろう。シュラの様に存在が広域に広がってしまった場合を考えれば通称の方が良いだろうからな」
「・・・ならば蟹では無くキャンサーと呼んでやれば良かろう」
 言えば、その手があったかとわざとらしく納得するアフロディーテ。
 解っていてわざと蟹と呼んでいたんだろうな。
「まぁ、蟹も蟹座も変わらないだろう」
「全っ然ちげーだろうが!テメェは魚も魚座も同じだってのか!」
 オレも蟹とキャンサー、魚とピスケスでは全然別物だと思うが余り口を出すと2人の口論に巻き込まれかねないのでマキノに断りを入れて部屋へと向かう事にした。
 シュラが使わせて貰っている部屋の前で足を止め、赤髪海賊団が港に居る間は海賊狩りを中止する事を伝える。
 海賊がいる同じ場所に海賊狩りとして名が売れ始めているモノがいるのは拙いだろうから自粛の方向でと話せばシュラも納得してくれた。
 これがデスマスクだったら「関係ねーだろ」の一言で拒否されたのだろうが。
 シュラと今後に関する簡単な打ち合わせや現在の資産額の確認を終え、部屋に戻ったオレをアフロディーテが訪ねてきた。
「下でルフィが貴方を呼んでいるけど、どうする?」
「理由次第だな」
「赤髪のシャンクスに会わせたいらしい。私とデスマスクは必要性から挨拶だけはしておいたが」
「が?」
「ルフィが私やデスマスクも強いが貴方はもっと強いのだと赤髪たちに話していてね。そんなに強い奴ならお目にかかりたい、と言う事だ。それとデスマスクが   
 余計な事を言ってくれたものだ。
 もとを糺せば最初に海賊たちを相手にした後、デスマスクがルフィの「誰が一番強いのか」と言う質問に「教皇に決まってんだろ」と答えたのが原因だったりもする。
 なのでこの場合、ルフィを責めるよりはアイツを責めるべきだろう。
 仕方なしにアフロディーテと階下へ向かえば・・・
「「「「「「「「「「あ゛ー!!!!!!」」」」」」」」」」
 何やら、海賊たちの悲鳴が聞こえてきた。
 厄介事が起きている気がしてならないんだがなぁ・・・



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